これまで動的電子状態(スピンクロスオーバー、磁性体、原子価異性、混合原子価など)の双安定性を利用した機能発現という研究が盛んに行われている。光誘起スピン転移(LIESST)化合物は、光スイッチング分子の一つとして知られており、強い分子間相互作用(π-πスタッキング)を導入することで、協同効果を大きくし、現在まで不可能とされてきた鉄(III)錯体などで初めて光スイッチング機能を発現することに成功した。一方、フレキシブルな系では今までに例を見ない機能発現および材料開発が行える可能性がある。例えば生体内においてタンパク質は活性中心の周囲にアミノ酸の連結による柔軟な場を形成しており、この空間が特異的な触媒機能の発現の鍵となっている。また、液晶材料やゲル材料あるいは薄膜材においても、その物性発現において構築素子が形成する柔軟な場が重要である。さらにデンドリマーなどの研究においては赤外吸収によるエネルギー変換においても柔軟な場が必要不可欠である。 そこで本研究課題は、長鎖アルキル鎖を導入した金属錯体を合成し、柔軟な場を構築することにより、従来まで発現できなかった金属錯体の機能発現の創製を目指した。ここで長鎖アルキル鎖によって形成された柔軟な配列ナノ空間場に動的電子状態特性(スピンクロスオーバー・原子価異性・磁性体・混合原子価状態など)を有する金属錯体を置くことによって、長鎖アルキル鎖の熱的揺らぎや振動などが中心金属錯体の動的電子状態に作用し新たな物性発現を観測することを目指し、動的電子状態に基づいた機能性金属錯体に液晶特性を付加させることに成功した。
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