研究概要 |
本研究の目的は,混合原子価ルテニウム錯体から成る強誘電性材料を開発することである.そのため,対カチオンとしてエチルアンモニウムを有するアニオン性ルテニウム2核錯体を設計・合成した.このルテニウム錯体は,溶媒に依存して様々な超構造を形成することが分かった.形態観察は光学顕微鏡(OM)と走査型電子顕微鏡(SEM)により行った.SEM観察により,層状のナノシート構造,ナノファイバーのバンドル構造などが確認された.混合原子価ルテニウム錯体の自己集合を規制し,超構造を形成するには,対カチオンの分子構造が重要と考えられる.さらに,サイクリックボルタンメトリー(CV)測定により,溶液中における混合原子価ルテニウム錯体の酸化還元特性について検討した.TBAPF_6を支持電解質として,-0.7~0.7Vの電位範囲において4つの酸化還元波が観測された.多くの実験により,溶液中において相互変換が可能な2つの錯体種が存在することが示唆された.また,固体状態における電子状態について,X線光電子分光法(XPS)と強誘電性測定により検討した.ルテニウムの酸化状態と元素組成を調べるために,-80℃においてXPS測定を行った.その結果,ルテニウム錯体が混合原子価状態であることが強く支持された.また,分極率の値はそれほど大きくないが,このルテニウム錯体が強誘電的な応答を示すことを見出した.今後,混合原子価ルテニウム錯体が強誘電性を示す最適な条件やパラメーターについて検討することが必要と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
対カチオンとしてエチルアンモニウムを有するアニオン性ルテニウム錯体が強誘電的な応答を示すことを見出した.そのため,次のステージとして2核ルテニウム錯体の化学構造の最適化が重要になる.さらに,強誘電性を示す実験条件(電圧,周波数,サイクル数など)の最適化が必要である.その後,混合原子価ルテニウム錯体が強誘電性を示すメカニズムを解明し,分極率が向上するための要件を明らかにする.
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