研究概要 |
本研究は,「シロアリのワーカーカースト進化に関する分子生態学的研究」という課題で,いくつかの種類のシロアリを対象として,カースト分化のシステムを比較し,その進化過程を検証しようということを目的としたものである.当初の研究計画とは若干異なる内容についても研究を進めつつあるが,シロアリの社会性の進化に関する新たな知見が幾つも得られている. その1つが,兵隊の性比に関する研究である.研究員本人が研究した種に加えて文献などから兵隊の性比に関する情報を集積し,既知の系統情報と照らして,シロアリの兵隊の多型性と性比関連に関して新たな仮説を提唱した.現在国際誌Evolution&Developmentに投稿中である. また,Psammotermes hybostomaという希少種かつ研究が進んでいない種について,コロニーを構成する個体の形態計測や形態観察からカースト分化経路を推定した.本種はワーカーカーストも兵隊カーストも形態(サイズ)が多様で,極めて特殊な分化経路を有していることが明らかとなった.本種に関しても現在投稿論文を作成中である。 上記の研究に加え,シロアリ目全体にわたっての系統関係を明らかにするために,シロアリの全ての科にわたる約50種のミトコンドリアゲノム配列を,次世代シーケンサーを用いて決定し,分子系統樹を策せ視する試みを行っている.現在までに収集されたサンプルは速やかにDNA抽出が行われ,シークエンシシグの準備が進んでいる.この解析が終われば,シロアリのカースト分化経路や社会進化の進化的道筋について詳細に議論することができると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画であった,社会性昆虫のシロアリについて,様々な種を採集し,そのカースト分化経路を推定すると共に,系統関係を明らかにすることによってその進化か過程を推定するというのが本課題の目的である.幼若ホルモン動態など,微量であるために測定が困難であり,上手く進まない実験もあったが,本課題の柱となる,分化経路の決定と,系統解析については順調に進行していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
現時点では,系統解析については進行中であるが,サンプルは既に揃い,残りの研究期間で完遂することが見込まれている.また,各種の生態に関してもデータを蓄積しており,現在論文を作成し,投稿中である.
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