研究課題/領域番号 |
10F00396
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村田 茂穂 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 教授
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研究分担者 |
SHIN S.-W 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | MZT / シャペロン / プロテアソーム / ユビキチン / 初期胚 |
研究概要 |
哺乳類動物では、受精後、卵子細胞質に蓄積されていた母性のmRNAや蛋白質が急激に分解され、さらに胚性ゲノムに由来する胚性遺伝子が発現する(胚性遺伝子の活性化)この時期は遺伝子発現が母性から胚性に移行する時期(Maternal-to-zygotic transition, MZT)と呼ばれており、この時期を経ることによって、生殖細胞に究極に分化した卵子は全ての細胞に分化することのできる能力(全能性)を持った初期胚にリプログラムされる。近年、受精後の蛋白質分解にはユビキチン-プロテアソーム系が関与することが報告されるが、その詳細な分子機構はいまだに明らかになっていない。我々は、このMZT時期の分子機構を明らかにすることを目的に未受精卵と受精卵の遺伝子発現を比較した結果、Ump1(Ubiquitin-mediated proteolysis 1)と相互作用するマウス生殖細胞特異的に発現する遺伝子GPAC(Germ cell-specific proteasome assembly chaperone)を同定することに成功した。我々は、GPACが胚性遺伝子の活性が起こる時期である受精後2細胞期で特異的にその発現が増加することを明らかにした。また、GPACをノックダウンすると、胚発生が1細胞期で停止、ユビキチン化された蛋白質が蓄積されることを明らかにした。さらに、GPACのノックダウンによりプロテアソームの活性が低下することと、20Sプロテアソーム形成因子やサブユニットと相互作用することを確認した。以上のことから、初期胚発生においてプロテアソームによる蛋白質分解は必須であり、マウス生殖細胞で特異的に発現するGPACは胚性プロテアソームの形成に重要な役割を果たしていることが明らかになった。卵子は排卵によって高い酸化ストレスを受けるが、ここで生殖細胞のみ発現するGPACが品質管理機構として胚性特異的なプロテアソームを形成すると考えられる。このように、GPACが関与したプロテアソームによる蛋白質の品質管理に関する知見の集積は、生命の様々な高次機能の制御や環境ストレスに応答した恒常性の維持に必須の役割を果たしているユビキチンープロテアソーム系の重要性の理解に役立つものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が解析しているGPACはマウス生殖細胞のみで発現する遺伝子であり、他の組織や細胞ではその発現が認められない。ここで、培養細胞にGPACを人為的に発現させ解析することにより様々な研究に応用できると期待されるが、いまだに培養細胞でのGPACの発現が確認できていない。しかし、今まで謎であったMZT時期での母性蛋白質分解にプロテアソームが関与することを明らかにしたことは高く評価される。
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今後の研究の推進方策 |
我々はすでにGPACの転写調節領域の制御下でEGFPを発現するトランスジェニックマウス(GPAC Tgマウス)の作成に成功している。このGPAC Tgマウス由来の細胞は、EGFPの発現を指標とすることでGPAC発現細胞の検出および単利が可能である。しかし、その発現は不均一であり、実験を進んでいく上で問題点が多い。対応策としては、FACS(Fluorescence-activated cell sorting)方法を用いたEGFP陽性細胞のみを回収し、回収したEGFP陽性細胞を用いてGPACの機能解析を行う予定である。
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