研究概要 |
ウンシュウミカンのフラベド(果皮部分)には多量のカロテノイドが蓄積する。中でも、'宮川早生'の枝変り品種である'山下紅早生'のフラベドには、紅色のアポカロテノイドであるβ-シトラウリンが含まれており、赤みの帯びた鮮やかな紅色を呈する。しかし、これまでβ-シトラウリンの生合成経路は不明であり、その蓄積メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では'山下紅早生'に含まれるβ-シトラウリン含量の季節変動を調査し、さらに、'宮川早生'とカロテノイド含量・組成およびカロテノイド関連遺伝子の発現の季節変化を比較した。'山下紅早生'では10月後半から11月後半にかけてβ-シトラウリンが急速に増大した。一方、'宮川早生'では実験期間中、β-シトラウリンは検出されなかった。また、両品種間で、他のカロテノイド含量・組成に大きな差は認められなかった。カロテノイド関連遺伝子として、カロテノイド生合成に関わる酵素遺伝子9種類、カロテノイドの代謝分解に関わる酵素遺伝子6種類について、リアルタイムPCRにより'宮川早生'と'山下紅早生'の遺伝子発現の季節変動パターンを比較した。その結果、カロテノイド代謝分解に関わる1つの遺伝子の発現が異なっていた。この遺伝子の発現は,果実の成熟期間中,'宮川早生'で低いままで推移するのに対して、'山下紅早生'では増大した。この'山下紅早生'における遺伝子発現の上昇は、β-シトラウリンの増大と非常によく一致していた。他のカロテノイド関連遺伝子の発現は、両品種間で、顕著な差は認められなかった。以上の結果から、'山下紅早生'におけるβ-シトラウリン生成には、カロテノイド代謝分解に関わる遺伝子の発現上昇が関わっていると考えられた。
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