研究概要 |
本研究は,クルマエビの持続的管理に必要な干潟域におけるポストラーバの着底メカニズム,生残率等を含めた個体群動態機構を解明することを目的としている。さらに,干潟域を成育場としない同科のサルエビの分布・動態に関する知見を得ることで生態特性の異なる種についての持続的な資源管理方策の構築を行いたい。平成23年度は,八代海の干潟における底棲動物の時空間分布に加え,クルマエビの体長組成を調べた。クルマエビは体長約7.5mmで着底し,着底直後と思われる体長10mm未満の個体の出現から着底期間は5~11月と推定された。これまでの研究で八代海におけるクルマエビの産卵期が4~9月であることを明らかにしているが(Ohtomi et al., 2003),本研究の推定結果はそれを支持するもので,産卵後1~2ヵ月でポストラーバが着底することを示唆した。一方,体長30mm以上の個体はほぼ周年干潟域に出現することから,八代海では干潟域で越冬する個体(晩期着底個体)が見られることが示唆された。このことは,同一年級群でも着底時期によって移動のタイミングや成長過程が異なる可能性を示唆する。今後はその詳細を明らかにしたいと考えている。 さらに,今年度は形態学的アプローチによるポストラーバの着底機構の解明を目指し,浮遊生活から底棲生活に変わるためにポストラーバの期間中に何らかの形態変化が生じると考え,実体顕微鏡下で体の各部位の観察と測定を開始した。また,複数年の採集データを込みにして干潟域における生残率の推定を試みたが,初期の生残率の適合度が低く,来年度に異なるモデルの適用を検討して再度解析を行なう。サルエビに関しては,時空間分布と産卵場に関する解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,開始以前から行ってきた八代海におけるクルマエビ,特にポストラーバや稚エビの標本とデータを用いて生活史初期の個体群動態機構の解明を行うことを主目的としている。クルマエビの成育場である干潟域の生物多様性,クルマエビの着底サイズや時期に関して貴重な知見が得られた。生残率の推定に関しては予備的な解析が終了した。また,本種はポストラーバの期間中に底棲生活に変わるが,その際に何らかの形態変化が生じると考え,今年度より実体顕微鏡下で体の各部位の観察と測定を開始した。以上より,概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の最も大きな課題は,干潟域におけるポストラーバから稚エビにかけての生残率の推定である。対数変換を用いた予備的な解析では初期の当てはまりが悪く,再検討を要する結果となった。今後はモデル選択を含め,さらに適合度の高い生残曲線を推定するつもりである。 干潟を成育場としないサルエビの分布・動態に関する解析に関しては,論文作成にとりかかりたい。これらを併せ,本研究で得られた研究のノウハウや知見を,本研究終了後に発展的継続課題として行う国際共同研究の出発点としたい。
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