平成24年度の研究成果の概要を以下に示す。 1)日本人の中鎖アシルーCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症の臨床的、遺伝生化学的研究:発症後診断群9名と発症前診断例9名を比較した。(1)血中アシルカルニチン値は発症群では1.57~7.00nmol/mL(カットオフ値<0.35)、発症前群では0.49~5.92と大きな差はなかった。保因者2例では0.44と0.51であった。(2)発症患者の初回発作は8か月~2歳2か月であり、3歳以前に初回発作がみられた。予後は発症群9例中8例が死亡するか後遺症を残していたのに対し、発症前群では9例全例が正常発達をしていた。(3)遺伝子変異は、c.449-452de1変異が16/36アレル(44%)を占める日本人特有のコモン変異らしい。 2)培養細胞とタンデムマスを組み合わせたin vitro probe (IVP) assayによる原発性カルニチン欠乏症(PCD)とカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼーI(CPT1)欠損症の診断法の確立:IVP assayは脂肪酸β酸化異常症(FAOD)の診断に有用であるが、PCDとCPT1欠損症の診断には応用できなかった。培養液に過剰量のカルニチンが添加されているからである。生理的濃度よりも低い濃度(10nmol/mL)で培養し、細胞内のカルニチン濃度を測定するPCDとCPT1欠損症の新しい診断法を開発した。 3)食中毒による急性脳症とβ酸化障害の関連に関する研究:セレウス菌による食中毒で短時間のうちに死亡した乳児の病態を解析した。セレウス菌の毒素であるセレウリドをIVP assayの実験系に添加したところ、FAOD患者でない細胞でも重症型のグルタル酸血症2型のプロフィールを示した。急性脳症を起こす食中毒の機序の一つとしてβ酸化系の一過性障害が起こる可能性の高いことを示した。
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