研究課題/領域番号 |
10F00515
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
長谷川 秀樹 国立感染症研究所, 感染病理部, 部長
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研究分担者 |
VANRIET Petronella Helena 国立感染症研究所, インフルエンザウイルス研究センター, 外国人特別研究員
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キーワード | インフルエンザウイルス / 経鼻ワクチン / メモリーB細胞 / IgG抗体 / IgA抗体 |
研究概要 |
経鼻インフルエンザワクチンは、現行の皮下に接種されるワクチンと異なり、感染の場となる気道粘膜上に交叉防御能を有する分泌型IgA抗体を誘導し、感染自体を阻止することが明らかになっている。本研究では、ワクチンの経鼻接種により交叉防御能の高い免疫を誘導するワクチンの開発と機序の解明を目指した基盤的研究を目的とする。本年度は、高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)の経鼻ワクチン接種に関する臨床研究(国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会承認済み)において、誘導される抗体の特徴を明らかにすることを目的とした。 H5N1ワクチンの経鼻接種で誘導される末梢血中の形質細胞の誘導に関してフローサイトメーターを用いて解析したところ、経鼻ワクチン接種の回数依存的に末梢血中の抗体産生形質細胞数が増加することが明らかになった。免疫学的に無垢な状態にあるH5N1ワクチンを経鼻から接種した場合には、IgA抗体産生形質細胞は、IgG抗体産生形質細胞の二倍程度誘導されることが明らかとなった。次に、抗体の多様性を解析した。抗体を形成する重鎖(H鎖)において、三番目の相補性決定領域(CDR3)は、V(D)J遺伝子再編成による各遺伝子連結部位に相当し多様性に富む。このCDR3に関して、IgG抗体とIgA抗体で比較したところ、IgG抗体と比べてIgA抗体の方でアミノ酸の数が多様であることが明らかになった。抗体は体細胞高頻度突然変異により抗原結合部位である可変領域に変異が導入され抗原への親和性が増すが、この変異はIgA抗体で高頻度に起こる傾向にあった。また抗体の可変領域を形成するV遺伝子座であるVH1-69を使用する抗体に高い交叉防御能が認められるという報告があるが、本研究において同じ遺伝子座から構成される可変領域を有するIgGおよびIgA抗体の存在が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の成果をもとに、高病原性インフルエンザウイルスA(H5N1)全粒子不活化ワクチンを用いた経鼻ワクチン接種の臨床研究(国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会承認済み)を実施し、誘導される抗体応答、ならびに抗体遺伝子の解析を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も本研究課題を継続する。インフルエンザウイルスの亜型を問わず交叉防御能を示す抗体の存在が近年報告されている。我々の研究に於いても、報告にある抗体と同じ可変領域V遺伝子座(VH1-69)を用いる抗体の存在が明らかになっている。今後は、これら抗体遺伝子情報をもとに組換え抗体として発現させ、上述の交叉防御能の有無を検討すると同時に、抗原認識に重要とされる可変領域が同じIgAあるいはIgG抗体を作製することで、アイソタイプの違いによる効果の差異を検討する予定である。 上記の研究は、感染自体を防御し交叉防御効果が高いとされる上気道粘膜上のIgA抗体の機能を明らかにするためのものであり、上気道粘膜上にIgA抗体を誘導可能な経鼻ワクチンの有効性を示す基礎的な研究であると考える。
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