真核生物のRNAポリメラーゼIIは、遺伝子の転写を担う重要な酵素であり、十数個のサブユニットから構成される。生きた細胞の中で、RNAポリメラーゼがどのように転写開始、伸長、終結を行うのかを明らかにすることは、遺伝子発現制御を理解するうえで非常に重要である。これまでにもGFP融合蛋白質を用いてRNAポリメラーゼIIの生細胞における分子動態が解析されてきたが、個々の報告で異なるモデルと結果が得られておりその全容の解明には至っていない。本研究は、RNAポリメラーゼIIの状態に応じて付加される翻訳後修飾の違いを利用して、そのプロモータ上へのリクルート、転写開始、転写伸長の各ステップに至るキネティクスを明らかにするとともに、ヒストン修飾などクロマチン構造の変化と転写制御の関係を生きた細胞で明らかにすることを目的として行った。昨年度の研究で、Fabを用いた内在性RNAポリメラーゼII検出系を構築し、転写誘導に伴うRNAポリメラーゼIIの動態を計測した。本年度は、その計測結果の定量化を行った。また、ヒストンH3K27のアセチル化の変動も合わせて解析を行った。さらに、定量的ウェスタンブロッティングにより、細胞あたりのRNAポリメラーゼIIの総量と特定のリン酸化状態にある分子数を見積もった。そして、RNAポリメラーゼIIの集積、転写開始、転写伸長のキネティックモデルの構築とシミュレーションを行い、RNAポリメラーゼIIの数と生細胞計測により得られた集積曲線に最もよく適合する数値を導き出した。その結果、遺伝子のプロモータにリクルートされたRNAポリメラーゼIIが、転写開始に至るまでに、複数回の解離と結合を繰り返すこと、また、転写開始から伸長に至る過程は比較的効率が高いこと、また、ヒストンの脱アセチル化が新規転写を抑制する可能性があることなどが示唆された。
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