研究課題/領域番号 |
10F00750
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
梅林 泰宏 九州大学, 大学院・理学研究院, 准教授
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研究分担者 |
BABAK Minofar 九州大学, 大学院・理学研究院, 外国人特別研究員
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キーワード | イオン液体 / 粘性 / 動的構造因子 |
研究概要 |
環境・生体負荷が小さな溶媒として常温で液体の有機塩であるイオン液体が注目されているものの、実用化には低粘性化が課題である。一方、イオン液体のみならず、水や非水溶媒のような分子性液体でさえ、溶媒の分子構造と液体構造、ならびにイオンの溶媒和構造と粘性率およびイオン導電率など溶液の巨視的な動的輸送物性の関係は不明である。近年、液体の粘性率は、中性子・X線の散乱実験および準(非)弾性散乱実験で評価される静的および動的構造因子で理論的に記述されることが示された。イオン液体の粘性を分子レベルで理解できれば、低粘性イオン液体の分子設計が可能となる。しかしながら、イオン液体に関する実験は殆ど報告されていない。本研究では、中性子・X線散乱実験および分子動力学(MD)シミュレーションによりイオン液体の動的構造因子を評価するとともに、イオン液体の静的および動的な巨視的物性を原子・分子レベルで定量的に明らかにする。 本年度は、比較的長いアルキル鎖を持つイオン液体は、非極性アルキル鎖が会合したドメインと極性の陽イオン骨格と陰イオンが会合したドメインからなる構造不均一が知られており、中性子・X線散乱の低Q領域(Q:散乱ベクトル)に構造不均一性を示す特異的なピークが現れる。中性子スピンエコー(NSE)実験による動的構造因子のアルキル鎖依存性に基づき、粘性率周波数依存性を解析すると、アルキル鎖増大に伴う粘性率増加に及ぼす低Qピーク成分の寄与が小さいことを見出した。さらに、Li+イオンを含むイオン液体のX線非弾性散乱(IXS)実験を行い、現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した中性子スピンエコー実験およびX線非弾性散乱実験および解析をほぼ完了したことに加え、粘性率周波数依存性との比較により、粘性率に及ぼすイオン液体の長距離秩序構造との直接比較が可能となった。また、クーロン相互作用に加え水素結合がイオン間に働くプロトン性イオン液体に関する構造不均一性の分子論的期限を明らかにするとともに、硝酸アルキルアンモニウムの場合、イオン間に働く水素結合が異常に歪んでいることを見出した。これらはいずれも世界に先駆けた成果である。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたとおり、当初計画の通り概ね順調に進捗しており、このまま計画に沿って研究を進める。
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