研究概要 |
本研究の目的は、病原微生物が抗原変異性を獲得してきたメカニズムを遺伝子配列の計算機解析によって解明することである。抗原変異は多くの病原微生物がホストの免疫系を逃れるために獲得してきた仕組みであり、ある種の病原微生物に対するワクチン開発が困難な理由の一つとなっている。そこで本研究では抗原変異に関わる遺伝子ファミリーを収集し、その配列を比較することにより抗原性獲得、特に配列多様性の獲得メカニズムについて明らかにする。このような解析は個々の遺伝子ファミリーではこれまでも進められてきたが、複数の遺伝子ファミリー、複数の生物種で解析するためのリソースはなかった。そのため、本研究ではデータベースをはじめとする計算機リソースを開発し、世界中の研究者がワクチン開発などに応用できるような解析環境も整備する。 本年度も、米国ブロード研究所からのデータ公開が遅れているため、データベース開発に重点を置き、解析はvarDBに登録しているデータで行った。varDBの更新は4ヶ月ごとに計4回実施し、遺伝子配列数で約2,000、タンパク質配列数で約1,300のデータを追加した。データ管理方法や検索・解析インタフェースの改良も検討し、リファレンスゲノム情報だけでなくサンプル、菌株、個体の情報を管理する枠組みを設計した。具体的にはPlasmoDBなど多くの病原微生物ゲノムデータベースで採用されているGUS(Genome Unified Schema)を利用したデータの管理とインタフェースの改良を進めている。ゲノムから抗原変異遺伝子ファミリーを検出する方法については、ファミリーサイズの大きさに着目し、パラロググループから候補を検出する方法を検討した。また、サブファミリーへの分類についてはpir(Plasmodium interspersed repeat)ファミリーに着目し、霊長類とげっ歯類のマラリア原虫で分類した。
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