研究概要 |
近年,深部体温上昇に伴う換気亢進反応により動脈血二酸化炭素分圧が低下し,この分圧低下が暑熱下での脳血流量低下に関与することが示唆された.過度な脳血流量低下は失神を招くため,この換気亢進による脳血流量低下が熱中症発生に関係している可能性が考えられる.しかしこの反応については十分に明らかでなく,特に女性の反応については不明な点が多い.本年度では,関連する研究として,深部体温上昇に伴う換気亢進反応と動脈血圧の関係を調べた.その結果,深部体温上昇によって換気量が上昇する者ほど,平均動脈血圧が低くなるという相関関係が見られ,深部体温上昇時の換気亢進によって,動脈血圧が低下する可能性が示唆される.動脈血管径や静脈圧が変わらなければ,動脈血圧の低下は潅流圧の低下,さらには脳血流量の低下を引き起こす.以上のことから,深部体温上昇に伴う換気亢進反応により,動脈血二酸化炭素分圧低下の影響のみならず,動脈血圧低下によっても,脳血流量が低下する可能性が示唆される.また,安静加温時に自発的過換気を行うことにより動脈血二酸化炭素分圧を低下させる条件と,吸気にCO2を加え動脈血二酸化炭素分圧を低下させない条件で体温調節反応である皮膚血管拡張反応及び発汗反応を比較した.その結果,動脈血二酸化炭素分圧が低下しない条件と比べて低下する条件で皮膚血管拡張反応及び発汗反応は抑制された.従って,深部体温上昇に伴う換気反応により体温調節反応が抑制され,それによって体温上昇が促されることで,より換気亢進が起こり,脳血流量も低下する可能性が示唆される.さらには,男性より女性で動脈血二酸化炭素分圧低下による脳血流量低下の程度が大きいことが示され,体温上昇時の換気亢進反応が脳循環に及ぼす影響は男性より女性で大きい可能性が示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験を予定通り行い,研究成果を国内外の学会や研究会にて報告し,関連する実験データを英文雑誌に掲載した.さらには,昨年9月より女性の体温調節,循環調節の研究における世界的第一人者であるDr.Minsonのもとで研究活動を行い,今後の研究方針や実験計画等について議論できた.
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今後の研究の推進方策 |
オレゴン大学のDr.Minsonの研究室で引き続き研究活動を行うこととする.問題点としては,Dr.Minsonは女性の心血管・糖代謝機能をテーマとして研究費を獲得しているため,そのテーマに沿った測定も行う必要があることである.従って,当初計画していた実験計画を変更する必要があるが,その点については継続して議論している最中である.また,日本で使用していた幾つかの実験機器がDr.Minsonの研究室には無いが,オレゴン大内の他の研究室などから短期間借り入れする予定である.
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