研究概要 |
これまでに様々な高周期14族元素二重結合化学種の合成が達成されているが、高周期元素を含む二重結合を集積化したメタラアレンの合成例は少なく、理論計算の結果から置換基効果によってその構造が変化しやすいことが知られている。しかしながら最も基本的な三つのケイ素からなるトリシラアレンでさえ、これまでに一例しか合成例がなく、これまでに得られている知見だけではメタラアレンの性質を理解するには不十分であり、新たな置換基や骨格元素の組み合わせを有するメタラアレンの合成は興味深い。そこで本年度は電気陽性なシリル基を四つ有するトリシラアレンの合成を行った。 当研究室で開発したジリチオンラン[(^tBu_2MeSi)_2SiLi_2]と、近年Roeskyらが合成に成功したジクロロシリレン-NHC錯体の反応から、トリシラアレン[(^tBu_2MeSi)_2Si=Si=Si(SiMe^tBu_2)_2]を合成することに成功した。その構造は、各種分光学的データ及びメタノールによる捕捉反応における生成物解析の結果から決定した。さらに、理論計算を行ったところ、最適化構造は完全な直線構造ではなく、Si=Si=Si折れ曲がり角度が164度で、わずかに折れ曲がった構造であると推定した。さらに骨格の電荷分布を見積もったところ、興味深いことに今回合成したテトラシリルトリシラアレンの分極[(^tBu_2MeSi)_2Si^<δ->=Si^<δ+>=Si^<δ->(SiMe^tBu_2)_2]は、先に報告されたテトラアルキルトリシラアレンの分極R_2Si^<δ+>=Si^<δ->=Si^<δ+>R2:R2=1,1,3,3-テトラキス(トリメチルシリル)シクロブタンジイイル]とは大きく異なっていた。これらの実験結果は、はじめて電子供与性の置換基を有するトリシラアレンを合成し、その性質を実験・理論の両面から明らかにした、という点で高周期14族元素多重結合の化学に新たな知見を与えた
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