過去の地震被害状況を調べてみると、平面的に不整形な建物では、偏心によるねじれ振動が原因となり崩壊したケースが多く見受けられる。そのため、最近のRC造建物では建物の偏心を小さくするために壁と柱との間に構造スリット(完全スリット)を設け、柱から絶縁して構造スリットを有する二次壁付きRC梁部材(以下、スリット梁と称する)として設計することが多い。偏心率の計算では、部材の初期剛性の評価が重要であるが、スリット梁の剛性の計算方法について、実際の設計においては、設計者の判断に委ねられている部分が多く、例えば二次壁の影響を完全に無視することがあるが、実挙動が二次壁のない梁と同一かどうかは定かではない。一方で過去の研究では、スリット梁の静的加力実験を行いスリット梁の初期剛性が壁無し梁の初期剛性に対して1.55~2.07倍程度大きくなることが報告されている。そこで本研究では、実験から得られたスリット梁の弾性範囲での応力状態に着目し、スリット梁の応力状態を表現できる物理モデルを提案し、そのモデルに基づいた初期剛性の計算方法の提案を行った。 本研究で得られた成果を以下に示す。本研究ではスリット梁の実験結果から、スリット梁の弾性範囲における軸歪み度モデル(S字モデル)の提案を行い、このS字モデルに基づいた初期剛性計算法の提案を行った。本研究で実施したFEM解析試験体を用いて、提案手法(S字モデルに基づく初期剛性計算法)の推定精度の検討を行った結果、ほとんどの試験体が±10%の精度の範囲内であった。このことにより、スリット梁の応力状態を適切にモデル化することで、スリット梁の初期剛性を精度良く評価できるということがわかった.
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