研究概要 |
ヒトが暑熱環境下で運動を行った場合,深部体温の上昇に伴い皮膚血流量や発汗量の増加といった体温調節反応が亢進することで,熱放散量が増加する.これに加え,換気量もまた深部体温の上昇に伴って増加することが報告されているが,この換気亢進反応の特性や生理的意義については不明な点が多い.我々の研究室は,近年,浸水冷却によって初期体温を低下させてから中強度の一定負荷運動を行った場合に,換気が亢進する深部体温閾値が約37℃で見られ,その閾値以上の温度では深部体温の上昇に対して換気量が直線的に増加することを明らかにした.本年度は,換気亢進の深部体温閾値および閾値以降の深部体温上昇に対する換気亢進反応が概日リズムに伴う体温変動によって変化するのか検討した.被験者は健常男性10名であった.安静時深部体温の大きく異なる早朝(6:00)及び夕方(18:00)に,暑熱環境下(室温37℃,湿度50%)において,25分間の浸水冷却(18℃)により深部体温を低下させてから,中強度負荷の自転車運動を40~60分間行った.食道温(深部体温の指標)に対して換気パラメーターをプロットし,深部体温上昇に伴う換気亢進反応を検討したところ,換気量増加の食道温閾値は早朝より夕方で0.6℃高く,閾値以降の換気亢進の感受性(食道温1℃の上昇に対する各反応の変化)は早朝より夕方で大きくなった.呼吸回数増加の食道温閾値は早朝より夕方で0.6℃高く,感受性は夕方で増大した.一回換気量は食道温上昇に伴い徐々に低下し,その感受性に早朝と夕方で違いはなかった.これらの結果から,(1)換気亢進の深部体温閾値は,早朝に比べて夕方に高温側へシフトすること,(2)深部体温上昇に伴う換気亢進の感受性は,早朝より夕方で大きくなること,(3)これら換気亢進反応の変化は,主に呼吸回数の変化によるものであることが示唆された.
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