暑熱環境下で運動を行うと、常温下よりも運動パフォーマンスは著しく低下するが、近年、このことに体温上昇時の換気亢進反応(温熱性過換気)が関与している可能性が示唆されている。体温上昇に伴う換気亢進により動脈血中CO2分圧が低下し、脳血流量が低下することで、脳温の上昇ならびに中枢性疲労が引き起こされる可能性が示唆されている。しかし、体温上昇時の換気亢進反応及びその調節メカニズムは十分に明らかではない。近年我々は、この換気亢進反応に関して、深部体温(温熱性入力)に対して換気量(出力)をプロットすることで、(i)換気亢進の深部体温閾値(約37℃)と(ii)深部体温上昇時に対する換気感受性(回帰直線の傾き)によってその調節システムを定量化できることを明らかにした。本年度は、暑熱下運動時の換気亢進反応及びその調節システムが暑熱順化(暑熱ストレスの繰り返しによって起こる生理適応)によってどのように変化するのか検討した。健常男性9名を対象とし、安静時暑熱暴露(室温45℃の暑熱下で2時間の安静)を10日間連続で行い暑熱順化を引き起こす前後で、暑熱下での中強度(最大酸素摂取量の50%負荷)一定負荷運動を行った。その結果、暑熱順化によって、運動時における換気量増加の経時変化は低下し、呼気終末CO2分圧の経時変化は高値を示した。体温上昇時の換気調節システムに関しては、暑熱順化によって換気亢進の閾値は低下し換気感受性は増大することで、同一体温時の換気反応は増大した。しかし、順化後には体温調節反応の亢進による深部体温の低下や酸素摂取量の低下が起こり、これらの変化が換気反応に対して抑制的に作用し、その結果として暑熱下運動時の換気亢進反応の経時変化は抑制されたと考えられる。この換気適応は、血中CO2分圧の低下を抑制し、それに付随して脳血流量を増加させることで、暑熱順化後の暑熱下運動パフォーマンスの向上に貢献しているのかもしれない。
|