研究概要 |
覚せい剤であるメタンフェタミン(METH)は、神経終末への過剰なドパミン放出により細胞死を引き起こし,神経毒性作用を発現させる。METHによる神経毒性に関する研究では、現在apoptosis型やnecrosis型、autophagy型細胞死経路の存在が知られているが、詳細な分子細胞学的機構の確立はなされていない。そこで本研究では、レチノイン酸(RA)により分化誘導したSH-SY5Yヒト神経芽細胞腫由来細胞を用い、METHによる細胞死作用機序を検討し、現在報告されている経路とは異なる、新たな細胞死経路の解明を目指すこととした。 実験方法は、SH-SY5Y細胞を2日間培養後,RAを投与し4日間分化誘導を行った。そして0-10mM METHを24時間曝露した後の細胞形態変化を観察し、アポトーシス関連分子変動を定量的に評価した。その結果、METHの濃度・時間依存的に細胞死割合が上昇し、METH 7mM以上で有意に細胞死亡率が増加した。しかしながら、カスパーゼ3およびPARPは、各濃度とも顕著な活性上昇は認められず,METHによる細胞死はカスパーゼ非依存的であると考えられた。未分化のSH-SY5Y細胞を用いても、分化誘導後の結果と同様であった。 一方、METH曝露直後より細胞内に空胞化が確認された。この空胞について、蛍光顕微鏡による観察を行い、オートファジー及び小胞体マーカーでは局在が認められなかったが、エンドサイトーシスマーカーの取り込みは顕著に確認された。更にアミロライド及びサイトカラシンDの前投与により空胞形成が抑制された。以上の結果より、METHによる空胞形成はマクロピノサイトーシス由来であることが確認され、METHによる神綴細胞毒性は、このマクロピノサイトーシスの過形成が関わっている可能性が示唆された。 今後の課題は、METH曝露によるマクロヒノサイトーシスの過形成が、神経毒性作用にどう関わっているのか、詳細な検討を行う必要がある。更に,培養細胞での細胞死経路を解明した上で,動物レベルにおいて、METHが脳内でどのような働きをして神経毒性を発揮するのかを検討する。
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