研究概要 |
日本の様々な地域でニホンジカ(以下、シカ)の増加に伴う下層植生の減少が確認されている。このようなシカによる下層植生の衰退は、植物の他にも、植食性昆虫・訪花性昆虫・土壌・物質循環などにも影響を及ぼすことが分かってきている。しかしながら、上述のようなシカが引き起こす陸域の改変が、水域の生態系に及ぼす影響についてはほとんど分かっていない。 そこで、平成22年度における研究では、いくつかシカが河川生態系に及ぼす影響について研究発表を行った。まず、1次河川においてシカが底生動物群集に与える影響について1件の論文発表を行った。この結果では、シカによる下層植生の消失が、土壌侵食を促進させ、渓流に大量の土砂をもたらすことで、1次河川での底生動物のミクロハビタット、そして群集構造が改変されることを示した。また、シカの有無によって1次河川・2次河川の底生動物群集がどのように変わるのかに関して、2件の学会発表で発表を行った。この結果では、1次河川では、シカが底生動物群集の組成を特に改変するのは、1次河川内で、2次河川内では、シカの有無と底生動物群集との関係に明瞭な違いが認められなかったことを示した。さらに、1~3次河川において、シカの有無によって渓流内の食物網がどのように変わるのかについて、学会発表1件で発表した。この結果では、シカによる下層植生の消失が、陸域での土壌侵食、リターの移動量の増加を引き起こしており、これらによって渓流への有機質土壌やリターの流入量が増加する可能性を示した。これらの流入量の変化によって特に2,3次河川において、シカが存在する所では、外来性有機物に相対的に依存した食物網を形成していることを示した。
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