本研究は、ハーフメタル特性に由来する高いスピン偏極率を本質的に有するCo系ホイスラー合金と、MgOバリアを組み合わせた、半導体への高効率スピン注入ヘテロ構造のデバイス基盤技術を構築すると共に、その優れたスピン輸送特性を実証することを目的にしている。現在までに、MgOとの格子ミスマッチの比較的小さいCo_2MnGe(CMG)を用いたCMG/MgO/CMG強磁性トンネル接合(MTJ)に対し、室温で220%、4.2Kで650%の高いトンネル磁気抵抗(TMR)比を実証している。しかし、ハーフメタル特性を十分に引き出すためには、さらに高品質なヘテロ構造を作製し、ハーフメタルギャップ中での状態密度を減少させることが重要となる。そこで、当該年度は、CMGと同様にハーフメタル特性が指摘されているCo_2MnSi(CMS)に着目し、CMS/MgO/CMS MTJ (CMS MTJ)の品質を改善することを試みた。ここでは、CMSとの格子ミスマッチの小さい(0.8%)CoFeバッファ層を導入することにより、MTJ 3層構造の格子ミスマッチを低減し、室温で340%、4.2Kで1800%を超える高いTMR比を得た。一方、半導体中への高効率スピン注入の実証に向けては、次世代のMOSFETのチャネルとして期待されるGeに着目し、急峻で平坦なヘテロ界面を有する全層エピタキシャル成長のCMS/MgO/Geヘテロ構造の作製法を確立した。作製したCMS薄膜はハーフメタルに対する理論値の98%に相当する飽和磁化を有している。構造的・磁気的に高品質なヘテロ接合の実現により、高効率スピン注入の実証が期待される。
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