カフェイン飲料の長期摂取による抗糖尿病作用が疫学調査結果として報告される一方で、カフェイン摂取が耐糖能を急性的に増悪させることが報告されている。本研究はこれらのカフェインによる相反作用の分子メカニズムを解明することを目的とし、カフェインが体内最大の糖代謝、インスリン感受性器官である骨格筋の糖代謝シグナル伝達分子に及ぼす影響を検討した。単離したラット骨格筋をカフェインを含む緩衝液中でインキュベートしたところ、カフェインは糖代謝を制御する主要因子である5'AMP-activated protein kinase (AMPK)を時間(≧5分)、用量(≧1mM)依存性に活性化するとともに、インスリン非依存性糖輸送活性を亢進した。AMPKにはα1とα2の2種の活性サブユニットが存在し、運動強度が高くなるとともにα1、α2の順に活性化して骨格筋糖代謝を促進することが知られている。カフェインにおいても、濃度が高くなるとともにα1、α2の順に活性化して糖代謝を促進する作用が認められた。一方、カフェインはインスリンシグナルの主要制御因子であるインスリン受容体基質1(IRS-1)やAkt活性を著しく阻害するとともに、インスリン依存性糖輸送を減弱させた。以上の成績は、カフェインは運動類似的な骨格筋AMPK活性化とそれに伴うインスリン非依存性糖輸送の亢進を介してカフェイン飲料の抗糖尿病作用に寄与するともに、IRS-1、Akt活性を含むインスリンシグナル伝達とそれに伴うインスリン依存性糖輸送の抑制を介して急性のインスリン抵抗性を惹起する可能性を示唆するものである。
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