カフェイン摂取による骨格筋インスリン抵抗性の誘発メカニズムについて分子的観点から検討を行った。ラットから単離した滑車上筋をカフェインを含む緩衝液中でインキュベートしたところ、カフェイン(3mM、15分)は、インスリンシグナル伝達の主要調節因子であるlnsulin receptor substrate(IRS)-1チロシンリン酸化、phosphatidylinosito1-3 kinase (PI3K)、Aktリン酸化を著しく抑制し、インスリン依存性糖輸送を阻害した。またカフェインはinhibitor KB kinase (IKK)リン酸化およびその下流ターゲットでありIRS-1活性を低下させる部位であるIRS-1セリンリン酸化を顕著に促進した。IKKの阻害剤であるcaffeic acid(5mM)をカフェイン刺激前に40分間作用させたところ、IRS-1セリンリン酸化が抑制され、カフェインによるIRS-1チロシンリン酸化、Aktリン酸化およびインスリン依存性糖輸送阻害作用が減弱した。また、カフェイン(5mg/kg)をラットに生体内投与したところ、投与60分後の骨格筋においてIRS-1チロシンリン酸化およびAktリン酸化の減弱が認められた。投与60分後のカフェイン血中濃度は約10μMであり、カフェイン飲料を摂取することにより到達可能な生理的濃度であった。 以上の結果から、カフェインはIKKシグナル活性化を介した骨格筋インスリンシグナル伝達抑制作用を有することが明らかとなり、これがカフェイン摂取による耐糖能低下作用の一因である可能性が示唆される。
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