研究概要 |
本研究の目的はメーザー源の絶対3次元運動を高精度で測定し非円運動成分を捉えることで、銀河系棒状構造の存在を力学的に示すことである。この目的のために、まずは最も明るく観測しやすい6.7GHzメタノールメーザー源の一つである大質量星形成領域W3(OH)を対象に試験観測し、年周視差及び絶対固有運動を求めた。得られた年周視差はπ=0.598±0.067秒角(誤差11%)であり、距離に換算すると1.67(+0.21/-0.17)kpcとなった。これは現状のVERAで太陽系から数kpcの範囲内の天体について6.7GHzメタノールメーザー源を用いた距離測定が可能であることを示している。この成果は、6.7GHzメタノールメーザー源の年周視差及び絶対固有運動計測結果としては、国内初であり、世界でも2番目の事例である。VERAで6.7GHzメタノールメーザー源の絶対位置計測が可能であることが証明されたところで、次の段階として、銀河系分子リング領域に存在すると考えられる6.7GHzメタノールメーザー源の内、どれがVERAで検出可能なメーザー源かを調べる観測を行った。その結果、Pestalozzi et al. (2005)の値で15Jy以上のフラックスを持つ75天体のうち35%にあたる26天体をVERAの最短基線に相当する1,000kmよりも長い基線で検出することができた。この検出率は今後VERAで対象天体を増やす際の目安となる。この観測で検出された天体の内、VERAで検出可能な絶対位置基準の連続波源も4°離隔以内に存在する絶対位置計測可能なメタノールメーザー源を10天体選出した。そして、複数天体の絶対固有運動計測に成功し、その結果に過去の観測結果も加え、銀河系棒状構造の入ったモデル(Sakamoto et al. 1999 ; Wada 1994)と比較し、観測結果をよく再現できることが示唆された。これは複数天体のメーザー源を利用して得られた銀河系ガスの3次元運動から銀河系棒状構造の存在を示唆した初めての例である。
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