申請者は当初、DNA損傷と老化との関係を線虫などの個体を用いて明らかにしていく計画を立てていたが、研究室が変わったこともあり、現在はゲノム中のDNA構造の決定とその影響についての研究という、よりミクロな視点からのアプローチを行っている。DNA構造は、一般的なB型DNA以外にもより密なA型DNAや、らせんの巻き方が逆の左巻きであるZ型DNAなどが存在する。左巻きのZ型DNAはDNA複製の際のねじれを解消するなどの生物学的役割が示唆されてきたが、最近になってDNA鎖切断が原因で起こるある種の遺伝病との関わりも示唆されている。そこで申請者は現在、ゲノム中のZ型DNAの配置を決定する目的で、DNA構造によって生じる生成物の異なる光反応性塩基を大腸菌にとりこませた後で光を当て、その生成物の場所からDNA構造を決定しようと試みている。DNA構造によって光反応生成物が変わる光反応塩基はいくつか報告されているが、申請者は5-Bromouracilに注目している。5-BromouracilはZ型DNA中で光を当てるとRNA体のグアノシンができるが、これは通常のB型DNAでは生じない。現在までに、大腸菌のゲノム中におけるチミンを70%以上の割合で5-Bromouracilに置換させることに成功し、また実際に光を当てることにより光反応が進行したことも確認した。しかし、その生成物の単離はまだ成功しておらず、現在はこの段階での研究を行っている。より簡単な系において、生成物を合成DNAに人工的に取り込ませたDNAから、その生成物を含むDNAを単離することには成功し、ゲノムへの応用を行っているところである。
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