研究課題/領域番号 |
10J00204
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
渡邉 英博 福岡大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 昆虫 / 匂い情報処理 / 嗅受容細胞 / 触角葉 / 機械感覚細胞 / 免疫抗体染色 / セロトニン / 細胞内記録 |
研究概要 |
本年度は前年度に引き続き嗅覚情報処理における、嗅覚一次中枢である触角葉を構成する糸球体の機能的な役割を調べるための研究を中心に行なった。第一にワモンゴキブリ触角上の嗅感覚子に内在する、嗅受容細胞の糸球体への投射パターンを形態学的に調べた。結果、ゴキブリの糸球体は触角上の嗅覚感覚子の種類依存的にグループ化されていることを見出した。この結果は本年度The Journal of Comparative Neurology誌に投稿し掲載された。また、電位感受性色素を用いた光学測定と細胞内記録法の二つの手法を用いることによって、糸球体を構成するニューロンの匂い応答:特性を実際に解析した。その結果、嗅覚情報は糸球体の時空間的応答パターンによって符号化されていることを見出した。また、このような糸球体の時空間的応答パターンの形成には多数の触角葉局所介在ニューロンの匂い刺激に対する同期発火が重要な役割を果たすことを発見した。この研究結果については、すでに論文として投稿済みであり、審査中である。 これら、嗅覚系の仕事とは別に、本年度は新たに触角機械感覚系の研究も行なった。免疫抗体染色法を用いることにより、ゴキブリの触角にはセロトニン陽性の機械受容細胞が分布していることを発見した。この発見は昆虫の触角感覚系において、アミン作動性の受容細胞の存在を初めて示した画期的な研究成果である。同時に、脳のセロトニン陽性細胞の分布をみることにより、これらの機械受容細胞の脳内への投射パターンも明らかにした。今後、嗅覚と機械感覚の受容細胞の投射パターンを比較することにより昆虫脳内での異種感覚の統合メカニズムが明らかになると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、昆虫の温度・湿度系の研究はあまり進展しなかったが、嗅覚系や機械感覚系の研究において、予想以上の成果が得られた。これらの研究結果は昆虫の脳内での異種感覚統合を理解する上でも重要である。また、成果のいくつかはすでに論文としてまとめており、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昆虫の脳内での嗅覚情報処理の研究において、非常に良い成果が得られている。今後は、当初の予定通り、ワモンゴキブリ嗅覚系の研究をより深化させることで、昆虫の感覚情報処理の神経基盤を探る方向である。その一方で、当初計画していた、昆虫の脳内での温度・湿度情報処理機構の解明はあまり進んでいない。また、上記のように昆虫の機械感覚系の研究で画期的な成果が得られた。今後は機械感覚情報処理機構についても精査することにより、機械感覚と嗅覚との統合メカニズムを解析する方向性も考えている。
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