シアン耐性呼吸酵素(AOX)は植物のミトコンドリア呼吸鎖におけるバイパス経路を構成し、エネルギー代謝系に柔軟性を付与している因子の一つである。しかしながら、その生理的な重要性に反してAOXの生化学的特性には不明な点も多い。そこで、本研究ではAOXの未知構造機能相関を明らかにし、その生理的な意義について呼吸制御の観点から考察することを目的としている。本年度は、当初の実験計画に記載の通り、先行研究において正常な酵素活性に不可欠であることが示唆されたN末端領域を対象として機能性アミノ酸残基の探索を推進した。具体的には、遺伝子工学的手法により人工変異を導入したAOX発現ベクターを構築し、HeLa細胞を用いた機能解析系に供することで各アミノ酸残基の評価を進めた。しかしながら、この実験においては検定したアミノ酸残基のいずれにおいても機能性は見いだされなかった。そこで、複数のアミノ酸残基が協調的に正常な酵素機能を付与しているという仮説を立てて解析を進める一方、先行研究で得られた実験結果の再現性について詳細に検証した。その結果、過去に機能解析に供した変異AOXの一部で分子構造が取り違えられており、その構造機能相関に関する考察に誤りが含まれていたことが判明した。そこで、従来の知見に基づく考察を抜本的に修正するとともに、本研究で着目している構造機能相関に関与する機能性アミノ酸残基の位置についても見直し、改めて11か所の候補部位を推定した。これらはいずれもN末端領域とは異なる部位に存在するものの、過去に生化学的解析に基づいた機能性が報告されたものはなく、本研究本来の目的のもと機能性を探求するに値するものと考えられた。そこで、これら11か所のアミノ酸残基の機能性評価を実施するための変異AOXを設計し、現在、それらの解析を急いでいるところである.
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