シアン耐性呼吸酵素(Alternative oxidase : AOX)はミトコンドリア内膜に局在するキノール:酸素酸化還元酵素であり、呼吸鎖においてATP合成と共役することのないエネルギー非保存的な電子伝達経路を構築している。植物においてAOXは呼吸代謝システムに柔軟性を付与するという点で重要な生理機能を有しているが、AOXの分子構造と機能性の相関関係については未だ理解が及んでいない点も多く、酵素の構造的な特徴と生理機能を関連付けた知見も限定的である。そこで本研究課題ではAOXにおける未知の構造機能相関を明らかにし、その生理的な意義を呼吸制御という観点から考察することを目的としてきた。 本年度は、採用第一年度から二年度にかけて実施してきたArum ooncinnatum AOXの構造機能相関解析において見出された研究成果を発表するために論文の執筆と補完的実験を行うことに重点を置いた。これまでの解析では、A. concinnatumに由来する二種類のAQX(AcoAQX1a及びAcoAOX1b)と両者の構造を基盤に持つ人工変異体をヒト子宮頸がん由来HeLa細胞に発現させて機能解析に供し、AcoAOX1aがC末端側のヘリックス間領域に擁するENV配列をAcoAOX1b型のQDTへと置換すると活性が消失すること、また、AcoAOX1aのN末端親水性領域上に位置する特定のフェニルアラニン(F130)をAcoAOX1b型のロイシンへと置換するとピルビン酸による活性化が量的に亢進することを見出したが、これらはいずれも新規的な知見である。そこで、論理的考察に必要な補完的実験を行った後、これらの知見について報告する論文をApplied Biochemistry and Biotechnology誌に投稿したところ、修正要求を満たすならば採録を再検討する旨の回答を得た。平成24年度末日時点においては、修正版原稿の再投稿を終えて採録の可否に関する最終決定を待っているところであり、今後も採録に向けて適宜対応していく予定である。 また、本年度は本研究課題に一部関連した内容で実施してきた国際共同研究の成果についても論文として取り纏めてBiochemical Journal誌に採録されるに至った。当該論文ではAOXの分子構造研究の対象として四次構造に着目する必要性を示唆している。
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