研究概要 |
多孔質材料は高い比表面積、透過性、外部環境変化の緩衝性などの性質を有するため、近年バイオテクノロジー、生物センサーやタンパク質の送達などの分野への応用に注目を集めている。これまで私は高分子積層膜の最表面の高分子の電荷により高度なタンパク質の選択吸着を見出した。さらに酵素免疫測定(ELISA)において、カチオン性高分子積層膜表面のブロッキング剤の高い被覆率により、従来のポリスチレンプレートより高い測定感度を有することが明らかとなった。そこで本研究では多孔質膜表面に高分子積層膜を作製し、従来ELISAの抗原-抗体の静的反応から抗原溶液を多孔質膜に透過する際に反応させ、従来の拡散に支配された反応から抗原の局所的な濃縮反応に変換させることにより、精密かつ迅速な検出が期待できると考えた。遠心透過法で抗原溶液の透過を実現した。様々な回転数と回転時間について検討した結果、800rpm,3minの条件下で最大の測定感度(シグナルとノイズの比)が得られた。遠心透過法は静的法(従来法、37℃,1h反応)と同程度に広範囲で定量可能であることが示唆された。しかも遠心透過法の反応時間は従来法の1/20に短縮された。これは遠心透過することにより抗原分子を短時間で基板、すなわち一次抗体の近傍に接近、局所的に濃縮させることで、精密かつ迅速な検出が実現できたと考えられる。一方、従来法は抗原分子のランダムな溶液中での拡散により反応が進むため、かなりの時間がなければ、反応が十分に進行することが困難であると考えられる。未修飾フィルターと積層膜を修飾した膜を比較すると、積層膜はより良い定量性が示唆された。これは積層膜表面の一次抗体の吸着量が多く、配向性が良好なためであると考えられる(H.Shen,J.Watanabe,T.Akagi,M.Akashi,Polym.J.2011,43,35.)。
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