研究概要 |
本研究は、昆虫が有する共生器官-菌細胞塊の形成・維持に関わる遺伝的・発生学的基盤を解明するため、菌細胞塊に特異的に発現する遺伝子群を網羅的に解析し、それらの機能を同定するとともに、菌細胞塊の発生過程を詳細に解析することにより、菌細胞塊の進化的起源に迫ることを目指す。 昨年度から取り組んでいた菌細胞塊と中腸のcDNAライブラリの作製および遺伝子配列の取得は、中腸においてのみ順調に作業が進行したが、菌細胞塊由来のライブラリは大腸菌の生育を妨げる何らかの因子により遺伝子配列の取得が難航した。そこで本年度半ばより、基礎生物学研究所の重信秀治氏の協力のもと、イルミナ社の次世代シークエンサーHiSeq2000によるRNA-seq、つまり大腸菌を介さない大規模な遺伝子発現の解析を行った。結果、ヒメナガカメムシの菌細胞塊と中腸より合計リード約1.61億(各100塩基)の塩基配列データを取得することに成功した。現在、配列のアセンブルおよびBLASTによる相同性解析を行っている。予備的な解析結果では、菌細胞塊に多く発現するいくつかの候補遺伝子が得られている。さらに今回得られた大量の遺伝子配列は、本研究に留まらず将来的に有益な遺伝子情報源となる可能性がある。 一方で、昆虫の発生を制御する複数の重要な転写因子群について、菌細胞塊形成への関与を検証するためヒメナガカメムシとその他カメムシ種より、PCRおよびサブクローニングを行い、D11,Lab,pb,Dfd,Antp,Ubx,Abd-A,zenの部分配列を得た。 次に、ヒメナガカメムシとウスイロヒラタナガカメムシの卵を経時観察し、それぞれの胚発生過程を明らかにし、蛍光in situハイブリダイゼーション法により共生細菌の挙動および菌細胞塊形成の部位と時期を明らかにした。結果、ヒメナガカメムシの菌細胞塊の形成過程は半翅類昆虫においてかなり特殊であることが判明した。また、今後の遺伝子発現解析の実験において注目すべき部位と時期が明確となった。
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