研究課題/領域番号 |
10J00300
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
伊藤 一明 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(PD)
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キーワード | ビタミンD受容体 / 腎臓線維化 / 化合物スクリーニング |
研究概要 |
申請者はリガンドが豊富に存在するビタミンD受容体(VDR)を用いて、VDRのgenomic活性とnon-genomic活性を測定したところ、種々のリガンドごとに両活性が相関しないことを見い出している。このことは、VDRを含む核内受容体のgenomic/non-genomic経路が特定のリガンドで分離できることを示している。核内受容体のgenomic機構(転写活性化機構)とnon-genomic機構(TGF-βシグナル抑制機構)を別々に制御できるリガンドを用いることで、これまで明らかになっていないnon-genomic機構の分子メカニズムを解明することができる。また、新たなタイプの治療薬の開発につながると考えられる。前年度までに、VDRによるTGF-βシグナル抑制機構の分子基盤を明らかにする目的で、Smadとの結合やnon-genomic活性に必要なVDRの機能ドメインを検索した。VDRはその分子構造から、リガンド非依存的な転写活性化領域のABドメイン、DNA結合領域のCドメイン、hingeであるDドメイン、リガンド結合領域・リガンド依存的転写活性化領域のEFドメインに分けることができる。各ドメイン欠損VDRを293細胞に発現させ、活性化型ビタミンD依存的TGF-βシグナル抑制活性を測定した結果、EFドメインがTGF-β経路の抑制とSmadとの結合に必要であることが明らかになった。 本年度は、VDRのgenomic活性を持たず、non-genomic活性を持つ化合物を得る目的で、VDRのアンタゴニストライブラリースクリーニングを、293細胞を用いたルシフェラーゼアッセイで実施した。その結果、数種のヒット化合物を得ることができた。次に内在的にVDRを発現する腎臓尿細管由来TCMK1細胞株を用いて、得られたヒット化合物のTGF-βシグナル抑制活性を細胞レベルで評価した。その結果、TGF-βシグナルの代表的標的遺伝子であるplasminoge activater inhibitor 1 (PAI-1)の発現は優位に低下した。このことから、スクリーニングによって得られたヒット化合物は細胞レベルでTGF-βシグナルを抑制することがわかった。さらに、in vivoにおける化合物の副作用・作用効果評価系の確立を行った。5週齢雄マウスの片側腎臓尿管を結紮し、一週間の活性型ビタミンD3連日投与(0.3、0.6μg/kg/day)後、腎臓組織の切片を作製し、マッソントリクローム染色を行い、顕微鏡下で線維化レベルを組織学的に解析した。その結果、活性型ビタミンD3 0.6μg/kg/day投与群では確かに線維化レベルは低下していた。腎臓における線維化関連遺伝子のmRNA量とタンパク質量を測定したところ、PAI-1、I型コラーゲン、α-smooth muscle actinの発現量と蓄積量は、活性型ビタミンD3 0.6μg/kg/day投与群で低下していた。さらに血中のカルシウムイオン濃度を測定したところ、活性型ビタミンD3投与群で上昇しており、副作用として高カルシウム血漿を患っていることが明らかになった。以上の結果から、化合物の線維化抑制活性と副作用を評価するin vivoの系が確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、化合物スクリーニングを実施し、ヒット化合物を得ることができた。得られた化合物が細胞レベルで作用を持つことも確認できた。さらに、in vivoにおける腎臓線維化に対する効果、VDRのgenomic作用を介した副作用の効果を同時に観察できる評価系を確立することに成功した。このことから、順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、細胞レベルで効果の強いヒット化合物を、本年度確立したin vivoの評価系を用いて評価する。組織学的に線維化が抑制されているか否かを評価するだけでなく、腎臓内で線維化の原因となるmyofibroblastの活性化のレベル、線維化原因遺伝子発現レベル、線維系タンパク質の蓄積の有無を解析する。さらに、実際に腎臓でTGF-βシグナルが抑制されているか否かを、Smad3のリン酸化レベルやTGF-β標的遺伝子のプロモーター領域へのSmad3リクルートメントを検討することにより、明らかにする。
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