古くから吸着・分離・触媒など様々な用途で用いられてきた多孔性材料は近年、新しい用途を指向して光電子特性を付与する研究開発が盛んに行われている。機能性有機低分子を用いて光電子特性を導入した多孔質構造は、センシング素子やバイオイメージングなどへの応用も期待でき、それらの研究開発には大きな意義があると言える。 本研究では、機能性有機酸と特定の有機塩基を組み合わせた有機塩から構築される超分子集合体を階層的に集積させ、外部刺激応答性を有した光電子機能多孔質構造を構築することを目的としている。本年度は、初年度および二年目に得られた成果をもとに多様な細孔構造と機能性を有した有機多孔質構造を系統的に構築する手法を確立した。本研究ではこれまで、有機酸として多環式芳香族モノスルホン酸、有機塩基としてトリフェニルメチルアミンを用いることで、スルホン酸の種類によらず多孔質構造が得られることを見出している。この結果から、スルホン酸の種類を水素結合性モノスルホン酸やジスルホン酸に拡張したところ、いずれの場合においても同様の多孔質構造を構築することができた。興味深いことに、これらの多孔質構造は導入したスルホン酸の種類に応じて機能性が多様に変化しており、内包分子に応じた柔軟な構造から、起因した高い気体吸着能を示す強固な構造など、幅広い多孔質構造を系統的に構築することに成功した。またこれらの構造は、分子応答的な発光色調も示しており、センシングシステムとしての応用も期待できるものである。今回これら一連の多孔質構造を『多孔質有機塩』と名付け、その構築手法と合わせて『Hierarchical Construction of Porous Organic Salts ComPosed of Ammonium Sulfonates Based on Supramolecular Approach』という題目で学位論文に総括している。超分子集合体を用いた階層的な構築手法によって、多孔質構造への簡便な機能付与を実現した本系は、有機多孔質構造を構築する上での新しいアプローチとして非常にインパクトのあるものだと言える。
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