申請者は固体化学を研究分野とし、低温合成法を用いた新物質合成とその物性探索を行っている。低温合成法とは、従来の高温固相反応法に比べ非常に低い温度(約500℃以下)で行われる反応のことを指し、反応前後の物質間に構造的相関が存在するため合理的な構造設計が可能である。化合物の物性はその結晶構造と密接な関連を持つため、従来は困難であった新物質の構造設計が原理的に可能である。よってこの手法を用いることにより、優れた電気磁気物性を有する新奇物質を得ることが期待される。 低温合成法の一つである固相イオン交換法により二次元磁性体の開発を行った。まず、銅酸化物高温超伝導体との関連が考えられる、銅の正方格子系について、従来より得られていた関連物質よりも二次元を向上させた系を合成した。この物質において申請者は超格子の存在を確認したほか、2Kの極低温まで磁気秩序がないことを確認した。またスピン量子数依存性について調べる目的で、関連物質として磁性イオンをマンガン、コバルト、およびクロムに変えた系も合成し、これらが反強磁性磁気秩序を示すことを明らかにした。 上記のイオン交換法の他に、低温固相還元法という新手法による開発も行った。透明伝導体として注目される還元アナターゼTiO_<2-δ>薄膜にこの手法を適用し、その酸素量を幅広く、またその電子物性を系統的に制御することに成功した。そして、従来よりも1桁低い10^<-3>Ωcmの室温抵抗率を、金属状態及び半導体状態の両方で達成した。
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