研究概要 |
上記課題の達成のために、主に二つの主題に対して研究を行った。一つは、脳腫瘍幹細胞(Glioma stem cells : GSC)とニッチがどのように治療抵抗性に関係するかの基礎的検討であり、もう一つはMRIを利用した脳内圧迫の程度を画像化する新規画像解析システムの構築であった。 1.GSCに関しての基礎的検討 腫瘍幹細胞の性質を再現した人工脳腫瘍幹細胞(induced glioma stem cell : iGSC)を作成し利用することで、今までの細胞株を利用した研究では解析が難しかったGSC・ニッチの特徴を検証した。当初は血管のニッチにターゲットをしぼっていたが、最終的にはニッチ全般での検討を行った。その結果、脳腫瘍で標準治療と なっている放射線照射を行うと、GSCはIGF1-FoxO3a経路を介して、幹細胞特性(増殖遅延・自己複製能など)を上げて、新たな抵抗性を獲得していることを解明した。この機序に対してIGF1阻害剤を使用すると、反復放射線照射時の抵抗性細胞を有効に治療できることを報告した(Osuka, et al. Stem cells, 2013)。 2.MRIを利用した新規病態解析システムの構築研究 拡散現象を利用した圧迫病態評価法の確立を行うことによって、血管新生抑制療法の効果判定に利用し、 最終的には脳腫瘍患者の正確な病態把握を行う目的で研究を行った。初年度に脳内の灰白質領域において、 組織圧迫に比例して拡散異方性が上昇することを発見し報告した。さらに、この技術を多くの施設で利用可能とするために、簡便に可視化できるソフトウェア開発を行い、その特許出願を昨年度行った。この評価方法を利用することで、各種頭蓋内疾患(水頭症・慢性硬膜下血腫など)の病態を正確に評価可能なことを報告した(Osuka, et. al. J Neurosurg, 2012)。血管新生抑制療法の効果判定への応用は、現時点では十分な結果を得られずに、今後の検討課題となった。
|