本研究では、YouTubeなどの動画共有サービスにアップロードされる映像を対象として、人物の容姿や家の表札などに対して自動的にプライバシ保護処理を適用する手法の確立を目指し、以下のサブテーマについて検討を進めた。1.一般に撮影者が撮影した映像には、意図的に撮影された人物と、偶然写り込んだ人物が存在する。意図的に撮影された人物は、撮影者がその映像で表現したい物事(撮影意図)を表すために不可欠であり、このような人物に対してぼかしなどのプライバシ保護処理を適用した場合、撮影意図が損なわれる。そこで、プライバシ保護処理のための要素技術として、カメラの動きと映像中の人物被写体の動きに着目して、意図的に撮影された人物の自動検出手法を確立した。実験の結果、フレームあたりの誤検出数1.22、未検出率42%を達成した。2.動画共有サービスに投稿された映像におけるプライバシ保護処理では、処理後の映像が撮影意図を保持する必要がある。そこで、サブテーマ1で確立した手法を利用することにより、人物被写体を対象として撮影者の意図を保持したプライバシ保護処理映像を自動生成する手法を提案した。評価実験では、プライバシ保護対象領域の31%を正しく処理可能であった。一方で、フレームあたり平均0.63領域に対して誤ってプライバシ保護処理を適用した。さらに、映像の質はその映像の価値を決定する重要な要因であることから、プライバシ保護処理による映像の質の劣化を明らかにするため、対象領域の塗りつぶし、ぼかし、および視覚的に自然な結果が得られるように対象領域を除去するシームカービングを利用した場合の、提案手法による映像の質を10人の被験者により5段階で主観評価した。結果、ぼかしは平均3.7点、塗りつぶしは2.0点、シームカービングは1.5点であり、シームカービングは時間的連続性が失われるため低得点となった。
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