研究概要 |
ジピリンのBF_2錯体BODIPYの新たな機能としてBF_2部位のフッ素原子を利用したカチオン認識能の発現を目指し、大環状BODIPY三量体を合成した。大環状BODIPY三量体は環内部に六つのフッ素原子が事前組織化されアルカリ金属イオン認識能を示した。中性のB-F結合を利用したカチオン認識はこれまでに例がなく、発光性化合物としての注目度が高いBODIPYの新たな有用性を示すことができた。また、二級アンモニウムイオンに対しても認識能を示し、分子機械等への応用が期待される擬ロタキサン構造を構築できることがわかった。さらに、BODIPYの3,5位をパラフェニレンで連結した鎖状の二量体から五量体までの合成に成功した。これらの多量体もB-Fによるカチオン認識能を示し、分子全体に共役が伸長した構造から共役が途切れた折りたたみ構造へと変化することがわかった。このような共役系の制御は化合物の電気化学的性質に大きく影響すると考えられ、これらの制御機構を明らかにすることは分子エレクトロニクスの観点からも非常に興味深いと考えられる。一方、ジピリンの3,5位にフェノールを結合させたN202型のジピリンを用い、ジピリンケイ素錯体の合成に成功した。これらのケイ素錯体は近赤外領域に強い蛍光を示し、中心ケイ素は五配位構造をとっていることが明らかとなった。また、二つのジピリンケイ素錯体が酸素原子によって架橋されたジシロキサン型の化合物も合成した。ジシロキサン型錯体は加水分解によりシラノール型へと変換可能であり、四配位ケイ素化合物では見られないようなシラノール型との可逆的な変換が可能であった。このとき、シラノール型とジシロキサン型とで吸収・蛍光挙動が大きく変化することがわかった。このような高配位ジピリンケイ素錯体は高配位ケイ素の可逆的な構造制御を利用し、ジピリン錯体の分光特性を変化させることが可能であり、今後更なる骨格修飾による機能化が期待される。
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