コバルトポルフィリンは酸性溶液中において、電気化学的水素発生の電極触媒として働くことが報告されている。しかしながら、その触媒活性は未だに高くなく、さらなる触媒活性の向上のためには反応機構の解明が必要不可欠となる。そこで私は、フッ素置換したテトラフェニルポルフィリン誘導体のコバルト錯体を合成し、反応中間体の検出及び触媒反応の反応機構の解明に向けて研究を行った。これまでの研究から、コバルト(I)ポルフィリンがプロトンと反応することでコバルト(III)ヒドリド種を生じ、これがさらにプロトンと反応することで水素発生が起こることが分かっている。しかしながら、反応活性種であるコバルト(III)ヒドリド種を検出した例はなく、その反応機構についても十分に検討されていない。このため、私は、コバルト(1)ポルフィリンの単離を行い、その反応性について調べた。 還元剤として水素化ホウ素テトラブチルアンモニウムを用いるとコバルト(I)種の単結晶を得ることができ、X線結晶構造解析からコバルト(1)ポルフィリンの結晶構造を得ることに成功した。また、種々のフッ素置換コバルトポルフィリンに対して還元剤としてコバルトセンを用い、生成したコバルト(I)種と酸との反応性について調べた。その結果、コバルト(I)種とプロトンの反応はコバルト(III)ヒドリド種を生成するプロトン化反応が律速段階であることが分かった。また酸濃度依存性から、コバルトポルフィリンの還元電位とプロトン化の速度定数には直線関係があることを明らかにした。 以上の結果は、コバルト(I)ポルフィリンを単離・同定し、その反応性について詳細に調べた初めての例である、この結果から、コバルトポルフィリンの還元電位から、プロトン化の速度を予測することが可能になったため、より高活性な水素発生電極触媒を開発する上で重要な知見どなる。
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