前立腺癌は近年増加傾向にあり、欧米人男性の癌罹患率では第1位である。前立腺癌は男性ホルモンであるアンドロゲンによって増殖が促進されることから、治療には抗アンドロゲン剤が用いられる。しかしながら、前立腺癌はこのような治療の過程で抵抗性を獲得することが知られている。この抵抗性前立腺癌には現在有効な治療法が存在しない。 本研究員は、これまでにKLF5の活性制御によって抗アンドロゲン剤抵抗性前立腺癌の増殖を抑制できることを見いだしており、核内受容体ERリガンドを使用することで、低分子化合物によりKLF5の活性を制御し、抗アンドロゲン剤抵抗性前立腺癌の増殖を抑制する事を目指した。 本年度は詳細な分子機構の解明を目標としていたが、Western Blot法、クロマチン免疫沈降法やルシフェラーゼアッセイ、定量的PCR法を用いてERリガンドによりKLF5の転写活性が亢進する詳細なメカニズムを明らかにすることができた。 KLF5が転写活性能を亢進するときには、ERを介して転写活性化共役因子であるCBPが強くリクルートされることが明らかとなり、その標的遺伝子であるアポトーシス誘導因子FOXO1が転写される。その結果、前立腺癌細胞においてアポトーシスが誘導され、腫瘍の増殖を抑制していることが示唆される。 今後は上記知見を基にスクリーニング系を構築し、KLF5の転写活性を亢進するリガンドのスクリーニングすることで、新規ERリガンドにより抗アンドロゲン剤抵抗性前立腺癌の増殖を抑制することを目指す。
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