研究概要 |
本研究では、独特な生態や形態を持つため進化的に非常に興味深い動物であるが、深海性のため系統分類学的な研究が後れていたツルクモヒトデ目の系統分類を明らかにし、その生物地理学的な進化を明らかにする基礎を築くことを目的とした。 本年度内にヨーロッパの4つの博物館を訪問し、タイプを含む多数の所蔵標本の観察を行った。内部骨片を含めた詳細な形態観察の結果、これまで183種が知られていたツルクモヒトデ目は、8種の未記載種を含めて、少なくとも177種に整理されることが分かった。これら未記載種のうち、タコクモヒトデ科の1種とテヅルモヅル科の2種をそれぞれ新種として発表した。また、博物館の所蔵標本のうち、分子系統解析に適した標本の組織を持ち帰り、これまでに研究代表者が行ってきた日本近海・ニュージーランドおよびオーストラリア近海の種の研究結果とあわせて、4科67種のツルクモヒトデ目の、核の18S rRNA,ミトコンドリアの16S rRNA, COI領域を解析した。その結果、(1)これまでに知られている4科のうち、テヅルモヅル科とキヌガサモヅル科、タコクモヒトデ科とユウレイモヅル科はそれぞれ単系統となる、(2)キヌガサモヅル科とテヅルモヅル科はそれぞれ単系統となり,テヅルモヅル科は2つのクレードに分かれ、(3)タコクモヒトデ科とユウレイモヅル科は、これまでの系統分類とは異なる3つのクレードに分かれるということが明らかとなった。これにより、ツルクモヒトデ目の科階級の系統分類はほぼ確かめられたといえる。また、得られた系統樹を元に分子分岐年代推定を行うことで、これまで西テチス海起源と考えられていたユウレイモヅル科が、実際にはオーストラリア・ニュージーランド起源である可能性が新たに示唆された。
|