二枚貝のボディプラン進化における「2枚の殻」と「閉殻筋」獲得の発生学的基盤を解明するために、それぞれについて解析を行った。まず二枚貝の殻が2枚になった原因を明らかにするため、貝殻分泌腺の始原細胞を蛍光色素で標識し、発生運命を追跡した。その結果、二枚貝では左右相称な2つの始原細胞が形成されることで2枚の殻が分泌されることが判明した。さらにMOとRNAiによる遺伝子阻害実験の結果、dppという遺伝子を阻害したとき、2枚の殻を分割する「蝶つがい」が形成されず、2枚の殻の形成が阻害されることも明らかになった。以上の結果から、2枚の殻の形成には1.貝殻腺の始原細胞を2つ生じさせる卵割パターンの変更と、2。dpp遺伝子により形成が誘導される蝶つがいによる貝殻の分割、という2つの二枚貝特有の発生パターンの獲得が重要であったことが示された。ついで二枚貝の新奇筋肉である「閉殻筋」がどのように形成されるのかを明らかにするため、筋肉マーカー遺伝子の発現解析による筋肉分化プロセスの観察を行った.その結果、二枚貝では、他の軟体動物と共通の筋肉である牽引筋とよばれる筋肉の原基から、中胚葉細胞が分離し、独自に閉殻筋に分化することが判明した。さらにこの閉殻筋原基の分離が生じる時期において、Hedgehogという遺伝子をRNAiで阻害したところ、閉殻筋の形成が阻害された。以上の結果から、二枚貝においてHedgehogの発現パターンが他の軟体動物と変化することで、新奇筋肉である閉殻筋が形成されるようになったと示唆される。
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