現在、銀河等の大スケールにおいて10^<-5> Gauss程度の磁場が観測されている。このような磁場は、宇宙が誕生した後に初期に存在した非常に弱い種磁場が、ダイナモ等の磁場増幅機構によって現在の磁場まで増幅されたと考えられている。しかし、磁場増幅機構そのものは磁場を作ることができないため、初期の種磁場は別の機構から作られねばならない。このような種磁場がどのようにして生成されたのかは、未だに解明されていない。そこで、私は、再結合時期前での物理過程を調べることで宇宙論的な磁場生成の可能性について研究を行った。 今回非断熱的な揺らぎが存在する場合の磁場生成についてトムソン散乱の強結合近似を用いて研究を行った。断熱的な揺らぎしか存在しない場合は強結合近似の1次で磁場が生成されないことが示されている。しかし、今回非断熱的な揺らぎが存在した場合、強結合近似の1次から磁場が生成されることを示した。さらに、アインシュタイン方程式を用いて揺らぎの発展を解くことで、生成される磁場のパワースペクトルを求めた。その結果、揺らぎ全体の1%程度が非断熱的な揺らぎであると仮定したときに1Mpcで10^<-20> Gauss程度の磁場が生成されることが分かった。この値は、断熱的な揺らぎによる磁場生成の過去の研究に比べて4桁大きい。さらに、銀河形成後のダイナモ機構によって現在観測されている銀河磁場まで十分増幅可能な値である。 本研究は、宇宙初期において生成される磁場を定量的に調べており、宇宙の再結合後の進化において磁場に対する初期条件を与えていることになる。磁場によって宇宙初期における銀河や銀河団等の構造形成史が変更される可能性も指摘されており、このことは宇宙の歴史を理論的に知る上で非常に重要である。
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