研究概要 |
平面四配位を持つ無限層SrFeO2は、高圧でスピン転移を起こすことが報告されていた。このスピン転移は四配位を持つ金属において初めて報告されたスピン転移であるなどいくつかの点で興味深い性質であった。この特異なスピン転移の起源を明らかにするためにSrFeO2と同様に平面四配位を持つスピン梯子格子Sr3Fe2O5に高圧の実験を行った。予想された通り同様のスピン転移を観測し、鉄の平面四配位のスピン転移の普遍性を明らかにした。さらにSr3Fe2O5では圧力誘起構造相転移を起こすもわかった(2011年JACS誌)。この構造相転移がSr3Fe2O5と類似の構造を持つ物質でも起こることを予想し、A2MO3(A = Sr, Ca, M = Cu, Pd)の組成を持つ物質でも同様の構造相転移が起こることを明らかにした(2011年Inorg. Chem.誌)。 金属ハイドライドを用いた低温還元法により新規鉄酸化物の合成を行い、放射光X線回折、中性子回折、メスバウアー分光測定などの実験によりその構造や物性を明らかにした。具体的にはSrFeO2のFeサイト置換を行い、FeサイトのMnとCoの固溶体の合成に成功した(2011年Inorg. Chem.誌)。さらにMnの固溶体において珍しい磁気相が出現することを突き止めた(2011年Phys. Rev. B誌)。 酸素不定比性のないSrFeO3やCaFeO3は過去に知られていたが、我々はBaFeO3の合成に成功した。粉末中性子回折実験により,BaFeO3(x=1)ではゼロ磁場でのスクリュー磁性の伝播ベクトルがSrFeO3とは異なる100方向であることを明らかにし、またこの物質が低磁場(~0.3T)で強磁性体になることがわかった(2011年Angew. Chem. Int. Ed.誌)。これは鉄酸化物において常圧での初めての強磁性体の報告であった。
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