長鎖アルキル基を有する酸化還元系分子の集積化に向け、これまでに多重入力-多重出力応答を示す酸化還元系分子を構築し、応答機能について検討を進めてきた。一方、液晶やゲルのような次元的秩序性はデバイスを構築する際の重要なバルクであり、集合化状態でのみ発現する特異な機能の実現も可能である。そこで、酸化還元系分子を利用した分子デバイスの実現を目指し、研究を展開した。本年度は、中性、あるいは酸化状態のいずれにおいても液晶相が発現し得るものをターゲットとしてビス(ジアリールエテニル)チオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン型の分子をデザインし、中心のチオフェンコア数やアルキル鎖長の異なるものについて系統的な合成、評価を行った。それぞれの誘導体についてUV/Visスペクトルや蛍光スペクトル、サイクリックボルタンメトリー測定を行い、液晶性の評価においては九州大学へ出向して研究を行った。その結果、アミノ基を有する誘導体では一波二電子の可逆な酸化還元波が観測されるのに対し、アルコキシ基を有する誘導体では二段階の可逆な一電子酸化還元波が観測されるなど、置換基に応じた特異な挙動が観測された。また、アルコキシ基を有する誘導体では蛍光強度も大きく、多重出力型のエレクトロクロミズム挙動を示した。さらに、これらの化合物はコアの数や置換基、アルキル鎖長によりスペクトル特性が段階的に変化するため、ファインチューニングの可能な酸化還元系分子となることを明らかとした。一方、液晶やゲルといった集合化状態の実現には至っていないが、これらの系統的な評価により、次年度以降の研究に対する重要な指針が得られたと考えている。
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