研究概要 |
高エンタルビー風洞におけるプラズマ気流の並進温度計測のために,レーザー吸収分光法を高感度でかつ空間分解計測となるように発展させる必要がある.高感度化に関しては,光学的共振器を利用したキャビティエンハンスト法を用いて,昨年度までで二桁の感度向上が確認され,日本宇宙航空研究開発機構の大型アーク加熱風洞での計測でも適用が可能であることが確認された.しかし,その計測はレーザー光路にそった線積分値を与えるため,空間分解計測にはさらなる工夫が必要となる.本研究では,吸収飽和現象を利用した空間分解計測に着目した.この方法は,従来のアーベル変換とは異なりプローブ光を測定対象に対して固定することができるため,光学的共振器を利用した高感度吸収分光法にも適用可能である.まず,吸収飽和が誘起されるために必要なレーザーの強度を知る必要があるため,キャビティエンハンスト法にてレーザーの強度を変え吸収飽和の現象を確認した.その結果,適用を考えているプラズマにおいては,一般的な半導体レーザーで吸収飽和を誘起することが可能であることが確認された. 近年,火星探査のための研究が盛んに行われ,大気圏突入に関する研究も,実験および数値シュミレーションの双方から進められている.しかし,二酸化炭素プラズマの生成は容易ではなく,日本には実用化された二酸化炭素プラズマ風洞が存在しない,そこで,本研究では,ドイツシュツットガルト大学の所有する誘導加熱型プラズマ風洞に対し,本研究室で培った計測技術を適用した,空気プラズマ中の酸素原子計測において,レーザー吸収分光法は高感度化が必要であることが既にわかっていたが,二酸化炭素プラズマ中の酸素原子計測に適用できるかどうかは未だ確認されていなかった.計測の結果,やはり吸収信号は非常に小さかったものの,観測可能であり,その温度は5000k程度であることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高感度化と空間分解計測を主な目的とする診断法の確立において,高感度化に関してはすでに実証されている.また,空間分解計測に向けた開発に関しても,その計測に利用される物理現象に対する基礎的な理解が深まり,新しい計測法の実現のために必要な諸元が明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
空間分解に向けた計測法の開発においては,プローブ光と吸収飽和誘起光の二軸を測定対象内で交わらせる必要がある.現在,研究室で所有している測定対象では,そのアライメントが困難であるため,計測法の開発に適した仕様に設計変更する予定である.その後,局所的な吸収飽和が誘起された場合と誘起されない場合の吸収信号の微小な差異をロックインアンプを使って評価する.計測法の妥当性が確認されれば,プローブ光と吸収飽和誘起光の交点を移動させながら,プラズマ気流中の並進温度の半径方向分布を取得する.
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