研究課題/領域番号 |
10J00683
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井尻 悠一 神戸大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 低分子量Gタンパク質 / Ras / シグナル伝達 / ^<31>P NMR / X線結晶構造解析 / 遷移 / switch領域 / Pループ |
研究概要 |
昨年度までに、H-Ras型M-Ras変異体の^<31>P-核磁気共鳴(NMR)、並びにX線結晶構造解析から、GTP型Rasの2種類の立体構造(エフェクターの結合に有利なstate2とエフェクターの結合に不利なstate1)の相互変換(state遷移)におけるswitch I領域とその近傍領域、switc hII領域、α3ヘリックス上のアミノ酸残基群が果たす重要な役割を明らかにしてきた。本研究では、state遷移のより詳細な分子メカニズムを解明するため、state遷移に関与する新規アミノ酸残基の同定を試みた。種々のH-Ras型アミノ酸置換を導入したH-Ras型M-Ras変異体の^<31>P-NMR解析を行った結果、PループにH-Ras型アミノ酸置換を有するM-RasD21AではM-Rasに比べstate2の占有比率が有意に増加した。このことから、前述の領域に加え、state遷移におけるPループの重要性が示唆された。 また、我々はstate1のswitch I領域近傍のポケット構造に結合し、Rasをstate1に安定化することでRas機能阻害剤として機能するヒット化合物を得ている(化合物の母核構造にもとにグループA、Bに分類)。ヒット化合物がRasをstate1に安定化するメカニズムを解明するため、ヒット化合物とH-Rasとの共結晶を作成し、X線結晶構造解析を行ったが、構造決定には至らなかった。一方、ヒット化合物存在下での安定同位体ラベルしたH-Rasを用いたNuclear Overhauser Effect(NOE)解析では、グループA、BともにRas上の化合物結合部位が明らかになった。化合物とRasとの結合情報に基づき、今後これらのヒット化合物の構造最適化を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により我々は、1種類のRasポリペプチドに由来する2種類のstate構造を世界で初めて決定し、state遷移に重要な役割を果たす水素結合のネットワークを明らかにした。本研究ではstate遷移に重要な役割を果たす新規アミノ酸残基を同定することに成功した。さらに、当研究室で開発中のstate遷移のメカニズムに注目したRas機能阻害剤の作用点に関する情報を得ることにも成功している。このように、Rasのstate遷移に関する基礎研究と、その創薬への応用研究が有機的に連携しつつ進捗していることから、当初の研究計画はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、H-Ras型アミノ酸置換を導入したM-Ras変異体、M-RasD21Aの^<31>P-NMR解析により、Pループがstate遷移に重要な役割を果たしていることが明らかになった。そこで、このH-Ras型アミノ酸置換がstate遷移に果たす詳細な分子メカニズムを明らかにするため、M-RasD21AのX線結晶構造解析を行う必要があると考えられる。そして、得られた構造情報を既知の構造情報(野生型H-Ras、H-RasT35S、野生型M-Ras、種々のH-Ras型M-Ras変異体)と比較することによりstate遷移の分子メカニズムの解明に役立てる。また、Ras機能阻害剤開発については、本研究により得られた情報をもとにヒット化合物の化学構造の最適化を行うことで、Rasのポケットにより特異的かつ安定的に結合するヒット化合物の創出が期待される。
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