今(最終)年度は、博士論文のデータ解析と執筆に重点を置きながら、ハードウェアの論文執筆も並行して研究を進めた。目標の研究計画を遂行できた。詳しい進捗は以下の通りである。 「銀河中心の研究」 博士論文課題である銀河系中心の活動歴史の解明において大きい成果を挙げた。銀河中心には巨大ブラックホール射手座A*が存在しており、その周辺の巨大分子雲からは中性鉄輝線が発見されている。中性鉄輝線の起源は過去における射手座A*の爆発だと考えられているが、爆発の性質は不明であった。私は分子雲の奥行き位置を求めるX線手法を開発し、銀河中心の分子雲(射手座B、C、D、E)の三次元位置図を作成した。さらに、得られた三次元位置・距離の情報からそれぞれの雲が対応する射手座A*の爆発時間と光度を計算し、最終的に射手座A*の過去における光度曲線を再構築した。次のような活動歴史を明らかにした。約600年前から100年前までの間、射手座A*は、X線光度が現在の約100万倍明るい活動期にあり、連続的かつ突発的に短い爆発を起こしていた。これらはオリジナルな三次元手法を用いて初めて解明した結果である。 「SOIPIXの開発」 今後のX線天文学における熱的と非熱的宇宙高エネルギー現象(例えば、銀河中心)の研究を開拓するために「高速読出・低バックグラウンド・精密分光撮像・広帯域のX線検出器」が必須である。その実現に向けて、SOI(Silicon-On-Insulator)技術を応用した日本独自のアナログ・デジタルLSIと厚いX線検出部の一体型ピクセルSOI検出器「X線SOIPIX」の開発を進めた。今年度(H25)は、昨年度に引き続き、最新試作品の性能試験とデータ解析を行い、次の結果を出した。(1)センサー部のレイアウトを改良することより出力ゲインを1.8倍向上させた。(2)軟X線による表面および裏面の照射試験において、アルミニウムの特性X線の検出に成功した。エネルギー分解能が180eV@1.5keV(表面照射)に向上した。(3)高比抵抗のシリコンウェハーを導入し、センサー部の空乏層厚が260um(完全空乏)に到達した。(4)回路クロストークの測定を行い、高性能(信号干渉比<0.5%)であることを実証した。(5)X線トリガーの検出およびスペクトルの取得に成功した(同種検出器では世界初)。(6)全面読出でエネルギー分解能660eV@8keVに達成した(SOIPIXのこれまで最高)。
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