研究概要 |
研究の目的は表現の分岐則を求めること,すなわち与えられた群の(一般に無限次元の)既約表現を部分群に制限したときの既約表現への分解を記述することである.特に導来関手加群と呼ばれる実簡約リー群のユニタリ表現が,代数的離散分解可能な場合を研究対象としている.平成22年度に行った研究の成果は次のとおりである.まず導来関手加群が対称対について離散分解するための判定条件を,ある種の放物型部分群の存在に置き換えて,大きい群の旗多様体と小さい群の旗多様体とを結びつける写像を構成した.これと導来関手加群の旗多様体上のD加群としての実現を合わせて,分岐則についての上からの評価を得た.さらにコンパクト部分の旗多様体に,部分群が推移的に作用している場合には分岐公式が得られた.これは,Kタイプを与えるBlattner formulaおよび離散系列表現の簡約部分群への制限について知られていた分岐公式を含んでいる.D加群の手法のみから得られた結果はここまでである.より一般の場合に進むために,小林の判定条件に基づいて離散分解可能な導来関手加群と部分群の分類を行い,それらを離散系列表現につながるクラス(離散系列型)とその他のクラス(孤立型)にわけた.孤立型については,ケースバイケースにD加群による考察とBlattner formulaを使ったKタイプの情報から分岐則を計算した.離散系列型については,これに加えてさらに離散系列表現のcoherent familyの交代和を使う手法を用いて分岐則を計算した.以上の手法で得られた新たな分岐公式は,等質空間上の関数空間やコホモロジー空間への表現の具体的な実現を通してそれらの空間の分解を与えており,非コンパクトな空間の大域解析とつながっている.
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