本研究全体の目的は、グライスの多層的アプローチに基づき、言語の意味を心理的概念によって捉える枠組みを提案することである。本年度は本研究の一年目に当たり、グライスの文献学的研究をもとに、グライスの多層的アプローチの定式化を目指すとともに、言語の意味論的側面に関する研究を進め、本研究をさらに進めるための基礎とすることを目指した。 まず報告者は、グライスの枠組み全体が、ミリカンら他の哲学者の道具立てを用いることで言語理解のフレームワークとして用いることができると考え、その方針のもとで一定のフレームワークを実際に提案した。この成果は、下記論文「表現の意味について」でまとめられている。 また報告者はグライスの枠組みに関して以前から危惧されている問題が解決しうるという可能性を発見した。この成果は、下記学会発表「生物と意味」にて経過が報告され、そこで発見された誤りを修正し、学会発表「意味の分析に関するひとつの提案」として改めて報告された。 言語の意味論的側面に関しては、表現の外延の決定の問題と表現同士の関係の問題の区別を見逃すことで無用な論争が起きている可能性を発見した。これは下記WS「意味論再考」にて報告された。そして表現同士の関係こそが意味論の基本的対象だと捉え、現在固有名をモデルケースとして取り上げ、過去の諸理論より広く現象を説明できる固有名の意味論の構築を目指している。この研究は2011年4月末までに何らかのジャーナルにて、成果を報告する予定である。
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