研究課題/領域番号 |
10J00734
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三木 那由他 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 哲学 / 言語哲学 / 意味論 |
研究概要 |
当該年度においては、グライスの多層的アプローチに基づいて意味と心理との関係を具体的に分析することを目標としていた。だが前年度に行なわれていた言語と他の意味との関係の分析が十分なものとなっていなかったため、本年度は具体的な言語現象を取り上げて、それを心理的な観点から考察することで、言語的意味と他の意味と心理との関係を調査することを試みた。 報告者は以前より分析を行なっていた固有名の問題に注目し、固有名の意味をめぐるさまざまなパズルが心理的観点を導入した形式的枠組みにおいて解決可能であることを示そうとした。具体的には、固有名の意味を人間の心理状態における個体概念と同一視し、そして個体概念の働きに基づいた形式意味論を与えることで、固有名をめぐるさまざまな困難が解消されうることがわかった。そしてそうした心理的な意味論の哲学的基礎としてグライスの多層的アプローチが利用可能であると報告者は考え、現在そのことをまとまった形で発表するための準備を行なっている。 本研究の意義は、わたしたちの心理の働きに関する知見が意味論において有効に利用されうることを示した点と、それによって実際に既存の意味論では解決が難しい問題を乗り越えうることを明らかにした点にある。これは、それ自体言語分析における重要な進展であるとともに、言語と心理との関係を考えるための足掛かりともなるだろう。さらに、固有名の使用と指差しなどの非言語的コミュニケーションにおける個体の指示との関係を分析することで、言語にとどまらずコミュニケーションにおける意味一般に関して、本研究の成果を拡張することができるだろうと予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、まず言語的意味とその他の意味との関係を調べたうえで、意味一般と心理との関係を分析することになっていた。だがむしろ言語的意味と心理との関係をまず調べたうえでその他の意味に分析を拡張するという方針のほうがよいと考え、研究の予定を変更した。そのために当初予定していた意味一般と心理との関係というところまで分析を進めるには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、言語的意味をまず意味一般に結びつけたうえで意味一般を分析するという方針よりも、言語的意味を具体的な現象に目を向けつつ分析し、その成果を意味一般に拡張するほうが有意義だと考える。これは、言語活動については言語学における知見が広く利用可能であるのに対し、意味一般、コミュニケーション一般に関してはいまだ研究が進展しておらず、利用しうる業績が少ないためである。従って、今後は引き続き言語的意味と心理との関係を分析するとともに、当初の予定にあった心理と理性との関係についても、言語現象を分析することで考察していくことにする。
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