研究概要 |
α、β不飽和アルデヒドはその多くが入手容易であり、重要な合成素子の一つとして注目されている化合物である。そのためこれまでに、近年発展の目覚ましい有機触媒、特に光学活性第二級アミンを触媒として用いたものを含め、α、β不飽和アルデヒドを用いて様々な不斉変換反応が開発されてきた。しかしながら、その多くはβ位のみに置換基を有するものであった。これはα位に置換基を有するアルデヒドにおいて、その置換基と触媒である第二級アミンとの間に立体反発が生じるため、効率的に基質を活性化することが困難であるためであった。このような背景のもと、私はメタクロレイン類縁体の効率的な変換反応の開発を目指し、立体反発の小さな第一級アミンを触媒として用いた検討を行った。 今年度、私は、主にメタクロレイン類縁体の立体選択的なエポキシ化反応に焦点を置いて研究を行った。エポキシドは最小の環上エーテルであり、数多くの生理活性物質の中に見られる構造であると同時に、求核剤を用いた開環反応など、その後の種々の変換反応によって含酸素原子化合物へと誘導できる。この反応が達成されると、α位にエポキシ環を含む不斉四置換炭素を有するアルデヒドとなるため有用であると考えられる。私は前年度までの研究からその有用性が確認できていた3,3'位に置換基を有する第一級軸不斉ビナフチルジアミン誘導体を触媒として、TBHPを酸化剤として用いることで極めて高い収率、高い鏡像体過剰率で目的物を得られることを見出した。また、得られた生成物を還元し、既知のエポキシ環を有するアルコールへと誘導することで絶対配置を決定し、(R)体の触媒から(S)体の化合物が得られることを確認した。このことは、反応の活性化状態において、アルデヒドと触媒から形成されたイミニウム塩の中でs-trans型のものが優先的に反応し、目的のエポキシドを与えていることを示唆している。
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