研究課題/領域番号 |
10J00754
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
百合野 大雅 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | イミン / アミナール / ブレンステッド酸 / ルイス酸 / Mannich型反応 / イミン前駆体 / 酸触媒反応 / 触媒的不斉合成 |
研究概要 |
イミンは炭素-窒素二重結合を含有する化合物群のことであり、これらに求核剤を作用させることでアミンへと簡単に誘導できることが知られている。中でも窒素上をBoc基で保護されたBoc保護イミンは、反応後、生成物として得られるBoc保護アミンの脱保護が容易であり、様々なアミン類縁体へと簡単に誘導するための足がかりとなるため、反応基質として最も汎用されるイミンの一つである。このようなイミンを得る手法としては、1993年にColletらによって報告された、前駆体としてα-スルホニルアミンを合成したのちに塩基を作用させるもの[1]が現在最も頻繁に利用される手法であるが、この手法で合成できるものはおおむね置換基としてアリール基やイミンのα位で枝分かれのあるアルキル基を有するものに限られており、直鎖アルキル基、アルケニル基を有するものは合成が困難であった。さらにアルキニル基を有するものについては今日に至るまでその合成例が存在しない。本年度の初めごろ私は、ビアリールジアミンから誘導したブレンステッド酸触媒を用いてBoc保護イミンとニトロメタンとのAza-Henry反応を検討する中で、副生成物として単離されたBoc保護アミナールに着目した。この化合物は、イミンの分解によって系中に放出されたカルバミン酸tブチルエステルが別のイミンに対して求核付加反応をしたことによって得られたと考えられる。また、Boc保護イミンの等価体とみなすことができ、酸性条件下片側のカルバミン酸エステルの脱離を伴うことで反応系中で高活性なイミニウムカチオンを発生させることが期待された。さらに特筆すべきこととして、シリカゲルクロマトグラフィー中でも分解することなく白色固体として単離され、空気や水、光などに基を使うことなく安定に保存できることを見出した。これらアミナールの合成法について検討したところ、アルデヒドとカルバミン酸tBuを脱水作用のある無水酢酸溶媒中、触媒としてトリフルオロ酢酸を添加することで高収率、さらにおおむね5~10分という非常に短い時間で得られた。このとき、得られたアミナールは溶媒中で固体化するため、濾過と続くヘキサン洗浄という非常に簡便な操作のみで単離精製が可能である。次に、得られたアミナールの反応性について検討を行った。ジクロロメタン溶媒中、マロン酸ジエチル共存下においてトリフルオロメタンスルホン酸銅(II)を触媒として用いることで、これらアミナールがイミンへと系中で分解し、対応するMannich反応生成物を高収率で与えることを見出した。また、この反応はマロン酸ジエチルに限らず、シリルエノラートや環状β-ケトエステル、アルコール、カルバミン酸エステルを求核剤に用いても同様に対応する付加体を与えた。さらに、インドールやアセチルアセトンを求核剤として用いた場合には、ルイス酸だけではなくトリフルオロ酢酸などのブレンステッド酸も触媒として用いられることを見出した。アセチルアセトンを求核剤として用いた場合については、軸不斉を有するビナフチルリン酸を触媒とすることで、立体選択的にMannich反応生成物を得ることに成功した。特に、これまで合成例のなかったアルキニル基を有するBoc保護イミンの前駆体となるアミナールについても、キラルリン酸を用いることで円滑に反応が進行し、良好な収率、立体選択性で目的物を与えることを見出した。[1]A. Collet. et al. J. Org. Chem., 1993, 58, 4791.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、軸不斉ビアリールジアミンを触媒として用いた不斉反応を試みていたが、その過程でBoc保護アミナールを発見した。このBoc保護アミナールは、合成や単離精製操作の簡便さ、長期保存の容易さ、さらにこれまで合成が困難であったBoc保護イミンの前駆体としても利用可能であることから、非常に有用な反応剤としての利用が期待される。また実際にブレンステッド酸、ルイス酸を触媒として用いることで様々な求核剤と円滑に反応が進行することを見出し、キラルブレンステッド酸を用いることで不斉反応への応用も可能であることを示した。これらの知見は、このアミナールを用いることでこれまで合成が困難であったイミンを用いた反応の有力な代替手法となりうることを示しており、今後の発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下に示す3つの軸にそって研究を進めていく。1.アミナールをより効率的に分解することのできる新たなブレンステッド酸触媒、ルイス酸触媒の開発を行う。現状ではアミナールを用いた反応は常温でもおおむね24時間以上かかるので、その反応時間の短縮と高い立体選択性を両方実現できるような触媒構造を検討する。2.アミナール特異的な反応を開発する。特に、この手法ではアリール基やアルキル基を有するものだけでなく、イミン母骨格に活性部位であるアルケニル、アルキニル基を有するイミンの前駆体として利用できるため、これを生かした反応の開発を行う。例えば、π-ルイス酸性の高い金や白金を触媒として用いることで保護基であるBoc基がアルキニル部位とうまく環化するような反応系や、一時的にα,β-不飽和イミニウムカチオン種が生成することを生かし不飽和炭素上での反応を開発する。3.アルキニル基を有するイミンの前駆体として利用できることを最大限に生かした、触媒的不斉Mannich型反応を開発する。
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