研究概要 |
今年度は研究代表者のこれまでの研究成果をまとめ,増補,発展させた学位論文「『阿闍世王経』の研究」を東京大学に提出した.学位論文の主要な成果のひとつとしては,『阿闍世王経』の編纂過程に関しては明らかにしたことが挙げられる.すなわち,阿闍世王が父を殺害したことからくる悔恨の念を解消する様が描かれ,本経の主題が展開する第V章から第X章の部分が編纂過程においても中心的な役割を果たしもの推測される,同時に,その第V章から第X章の部分を核として,大きく2つの段階を経て編纂されたと考えられる.つまり,第1段階として第V章から第X章の部分が第XI章から第XIII章の部分に結合し,次いで第2段階として第I章~第II章,第III章,第IV章のそれぞれが第V章から第XIII章の部分に付加されたとみられる.これに関しては平成23年6月に開催される第16回国際仏教学会学術大会(台湾)にて口頭発表予定(発表受理済)である.学位論文のもう一つの主要な成果としては,『阿闍世王経』の第V章から第X章の部分についてチベット語訳テキスト,諸訳対照テキストおよび訳注研究を提示できたことである.とくにチベット語訳テキストについては11種のカンギュル諸資料の資料を校合したものであり,今後同経の研究を進めていく上で基礎となるものである.さらに,学位論文提出後には,新出のウランバートル写本やパタン写本を新たに加えて,学位論文では扱えなった第I章から第IV章,第XI章以降の部分について,チベット語訳テキストを作成する上での準備的作業である諸本校合の作業を進め,年度末にはほぼ完了したまた,これまで参加してきた辛嶋静志教授(創価大学)が主催する仏教写本の研究会の研究成果として,Buddhist Manuscripts from Central Asia : The St. Petersburg Sanskrit Fragments所収の1篇が共著として平成23年度中に出版予定である.
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